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第4話 猟犬様からのお誘い

 逃げるのは良くなかった。  頭の中で緊急避難警報が鳴り響いたので反射的に逃げてしまったが、数日経ってからひどく落ち込んだ。たくさん贈り物を貰ってお礼をしたかったのに、何もできなかった。  ちょっと揶揄われたくらいで逃げ出すなんて、仔犬ちゃんのすることだ。  希望は誇り高き猟犬の血を引くわんこである。ライは怖いし、恐ろしく魅力的だが、逃げたままではだめだ。    希望がライに会いに行くと、ライは「やっと来た」と笑った。まるで希望が来ることを知っていたかのような言い方だ。  希望は首を傾げていたが、ライはすぐに希望を中庭に連れ出した。  他の人と話していたみたいだったのに、置いてけぼりにしている。大丈夫なのかと気になって振り向こうとしたが、ライが希望の肩を強く抱き寄せたので、できなかった。    中庭の長椅子に座っても、ライの手は希望の肩を抱いたままだ。少し気になったが、なぜか楽しそうなライが不思議で、希望は首を傾げた。   「……この間は逃げちゃってすいません」    希望が少し俯くと、合わせて眉と尻尾も垂れていく。   「でも自分で戻ってきただろ? ここに」 「? ……うん?」    だからいいよ、とライが笑うが、希望には何がいいのかわからなかった。  少し考えて、許してくれるってことかな、と気付き、ほっとして、体の力が抜けた。「やっぱり仔犬ちゃんだな」って呆れられているのではないかと不安だった。   「……あの! お礼になにかできることありますか? 何でもするよ!」 「何でも?」 「うん! 部屋の掃除も、料理も、洗濯もするし、制服にアイロンかけるのもキレイにできるよ! あ、歌うのも得意だよ!」 「……まあ、そのうちな」 「狩りには行ったことないけど、欲しいものがあったら、頑張って探すよ!」 「ああ、狩り行ったことないんだ?」 「え? う、うん?」    ふーん、そう、と答えて、ライが希望を眺めている。希望は首を傾げて、ライを見つめた。大人しく答えを待っているが、尻尾はパタパタパタパタと忙しなく動き、何かな? 何かな? と瞳が訴える。   「じゃあ、今度一緒に行こうか」 「え!?」    希望がびっくりして飛び上がりそうだった。代わりに垂れ耳と尻尾がピンッと起き上がり、見開いた金色の瞳はきらきらと煌めき、いつもより輝いている。   「俺、猟犬じゃないのに、行っていいの?」 「狩猟場なら所属問わず解放されてるし、初めてでも平気だろ」 「でも、狩りの仕方あんまりよく知らない」 「全部教えてやるよ。で、いつにする?」 「え? えっと……」    希望は小さい頃、希美と共に狩りの練習で家の山に入ったことがあった。離れてはいけないよ、と言われていたのに、希望は綺麗な鳥を追いかけて一匹で奥まで行ってしまった。迷子になっていることにも気づかず遊んでいたから怖い思い出はないが、それからというもの、狩りに連れて行ってもらえなくなった。  猟犬は強くてカッコいいけど、猟犬になりたいというわけではなかったし、自分が悪いんだ、合わなかったんだ、と思って諦めていた。    鼓動が早くなって、心が弾むのを止められない。ライに予定を聞かれても素直に答えている。  いつの間にかライの腕が腰に回っているのにも気づかず、希望はドキドキしていた。   「またな」 「はい! 楽しみにしてます!」    ライと別れる頃には、希望はワクワクとした気持ちが表情に溢れて、瞳が眩しいくらいに輝いていた。  ゆらゆら揺れる黒い尻尾と大きな背中を見送ると、希望もまた、尻尾をぶんぶん振りながら帰っていった。

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