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第20話 猟犬様の戯れ⑥

 最初に褒めてくれた自分の腹筋に、ライから口付けが落とされる。  触れるだけのそれに「ひぁっ」と小さく悲鳴をあげると、ライと目が合った。荒い呼吸に胸を上下させて、希望はライをじっと見つめる。  何かを訴える熱っぽい眼差しの意味を察したのか、ライはうっすら笑みを浮かべると、ゆっくりと上がってきた。胸の突起近くに落ちたキスに、希望が小さく震えて、まだ何も受け入れていない腹の奥を疼かせる。    腹から胸、胸から首筋へとキスが降り注いで、ついに希望が待ち侘びた唇が合わさる。ちゅ、ちゅ、と何度か啄むようなキスを繰り返していると、もう待てない、とばかりに希望が僅かに唇を開いた。希望が望んだ通り、ライは深く唇を合わせて、舌を絡める。    強引に吸い上げるのではなく、また、食らいつくわけでもなく、希望に合わせてゆっくりと角度を変えて絡み合う。舌や口内が擦れて、腰がひくつき、頭はじんじんと甘く痺れていくようだった。    気持ちいい、気持ちいい、とそれだけでいっぱいになって、ライの舌を美味しそうに吸う。ぎゅうっと目を瞑ったまま、夢中になって舌を吸って絡める。ライが僅かに目を細めて眺めていたが、目を瞑っていた希望は気づくことはなかった。   「ふっ……」 「んぁっ……ぁあっ……!」    ライはしばらく好きにさせていたが、希望が腰を擦り付けながら、いつまで経っても唇に吸いついたまま離れる様子がないので、引き剥がした。  希望は切なそうに声を上げ、ライを見つめる。はー、はー、と呼吸は荒く、頬は紅潮して、唇は半開きのままだ。ライもまた、希望の好きなようにさせていた分、僅かに呼吸が乱れている。   「あっ……ライさんっ……! は、はやくっ……もっと触ってぇっ……?」 「焦りすぎ。……ちょっと待て」    希望の上擦った声に、ライは呆れたように笑って、宥めるように希望の頬を撫でた。  手のひらの熱さえ心地よくて、希望は自ら頬を擦り寄せる。長い指に、ごつごつと骨の強さと太さを頬で感じて、これが自分を掻き乱していたと考えるだけで堪らなく疼いた。   「あっ……」    離れてしまう指先を名残惜しそうに視線で追いかける。  その手で触れて、乱して、気持ちよくしてくれるのだと、期待を込めて、じっとライの指先を見つめていた。    ライはいつの間にか小さくて四角いパッケージを持っていた。周りがギザギザとしていて、平べったい。   (……?)    見慣れた――というほどではないが、幾度かは目にしたことがある――それを、ライの指先がビリッと裂くように破く。中からはてらてらと輝く丸いものが出てきた。  希望はぼんやりとした頭で、ライの指先の行方を追う。   「……っ!?」    ズボンのチャックの奥から見えたものに、希望はぎくりっと身体を強張らせた。ライの体格に見合った雄の象徴を目にして、ふわふわと蕩けていた頭がガツン、と殴られたように目覚める。   (あっ、あれ……? 触るだけじゃないの?)    ライが持っていた丸いものの中心が伸びて、そそり勃つそれを覆っていく。  急にクリアになった頭で、それが何なのか、希望はようやく気づいた。  これから何をしようとしているか、ようやく気づいた。    ――えっ、ほんとにするの? ……こっ……恋人じゃないのに!?    血の気が引いていく音さえ聞こえる気がして、希望はただ呆然とそれを見つめる。  けれど、ライの手がぐっ、と両足の膝裏を掴んで広げて、押し当てた熱に思わず悲鳴を上げた。   「ひっ」 「……?」 「あっ、あっ……!」    ライが顔を上げて首を傾げるが、希望はそれどころではなく、目を見開いたまま唇を震わせる。   「……なに?」 「あっ、あっ……っ……!」 「ん?」 「ちょ、ちょっと、まっ……まって……」    やっとのことで声を絞り出すと、ライは僅かに目を丸くして、それから、軽く笑った。   「はやくって急かしたくせに」 「……っ……あ、ぅ……」 「焦らしてんの?」 「いやっ、あの……」 「結構可愛いことするね」 「っ……あっ……!」    熱は押し当てられたままだが、頬や額に柔らかくキスを落とされ、柔らかさと温かさ、擽るように撫でる指先に少しホッとする。乱れた呼吸もリズムを取り戻して、唇の震えも少しずつ収まっていく気がした。  しかし、身体の強張りが解けていくにつれて、押し退けていた情欲が沸々と溢れてきたことに気づいた。   「……やっぱり焦らしてる?」 「っ、ち、ちがっ……!」 「こんなに必死に腰動かしておいて?」 「あっ、あっ……!」    ライが揶揄うように笑みを浮かべて、希望の腰を撫でる。  双丘の奥に擦り付けられる固い熱に怯えて、逃れようとしていたはずなのに、今は自ら腰を押し当てて擦る寄せていた。ずり、と擦り上げる度に体が震えて、それ以上を求めようと勝手に腰が動いてしまう。   「こんなテク、どこで覚えたんだよ」 「んっ……ち、ちがう! ……あっ、ま、待って……!」 「もういいから。口開けて」 「っ……? あっ……んぅ……?」    恥ずかしさで混乱して、希望は言われるままに口を開いてライの口付けを受け入れてしまった。   「んっ、ぅんっ……!」    深く唇を重ねると熱く、蕩けそうになる。  けれど、再び固い熱がぐっ、と押し付けられたことに気づいて、びくりと体が震えた。  腰を引こうにもしっかりと抑えられていて、動かない。  すでにじっくりと解されたそこは、押し付けられた先端にきゅうっと吸い付いている。抵抗できず、唇を奪われて抗議もできないまま、ライの熱い楔が一気に奥まで貫いた。   「――ッ……!! んんぅっ!」    一瞬目の前が真っ白に弾ける。唇は塞がったままで、悲鳴も抑え込まれてしまった。けれど、希望は目を大きく開いて、身体をガクガクと震わせた。    ――うそ……はい、って……?   「……ふぁっ……! あっ、あぁっ……ァアッ!?」    唇を解放されて、大きく息を吸い込もうとしたところで、もう一度奥を抉られる。身体を仰け反らせて、声が押し出されて高く響いたが、その悲鳴に苦痛の色はない。それが恥ずかしくて仕方ないのに、容赦なく奥を貫かれては嬌声をあげるしかできない。   「はぁっ……アアッ! あんっ……! やっ……あぁっ! あっ!」    ライの指でさえ届かなかった奥までいっぱいに押し広げられて、中の肉壁はビクビクと震えて締めつける。何度か希望を揺さぶって、反応を確かめていたライは、僅かに息をついた。   「はぁっ……、きつ……。結構慣らしたんだけどなぁ。力抜ける?」 「ふぁ……っ……?」    希望はライを見つめて、ぼんやりと首を傾げた。はーっ、はーっ、となんとか呼吸を繰り返すことに必死で、身体は強張ったままだ。  ライはぼんやりと蕩けた表情の希望を眺めて、また少し笑った。    奥までしっかりと繋げたまま、キスを繰り返す。深く口内で絡み合って、解かされていく。その間も、舌が擦れ合う度に希望の身体も、中も震えて、受け入れたライを締め付けた。   「んんっ……ぅん、んぅっ……! ふぁっ……んぁっ! アアッ!」    ゆっくりと引き抜かれていた熱が、ズン、と強く奥を貫いて、希望は悲鳴を上げた。  そのまま揺さぶられて、続けて嬌声を響かせて、悶えよがる。   「あぁっ! あんっ、ぁあっ! あぁっ……! んあぁっ!?」    ライが無防備な胸に突起をきゅうっと強く抓る。強い刺激がビリビリと全身を走って、快感から逃れようと希望の体が大きく仰反る。中もきゅんきゅんと締め付けるから、反応の良さにライはケラケラと笑った。   「次はどこがいい? こっちは?」 「ああんっ! んっ、んんぅっ……!!」    揺さぶられて、そそり立った頂点から透明な欲を零すそこを、ライが大きな手で包み込んで擦り上げる。足の指に力が入って、耐えるようぎゅうっと目を瞑って、眉を寄せる。  その間も、ライは何度も腰を打ちつけて、たっぷりのローションで慣らされたそこはじゅぷじゅぷといやらしい音を立てていた。   「何しても締まるなぁ。もういっかこのままで。な?」 「あっ! ぁあっ! あんっ! ひゃぅ……っ! んぅっ!」 「なあって。全部触ってるよ。気持ちいい? 嬉しい?」 「あんっ……! ああっ! あぁんっ!」 「あはは、聞こえてねぇの?」    可愛いね、とライが続けて、時折おもちゃでも弄ぶような手つきで胸や中心に触れる。そのたびに希望が反応すると、やっぱりおかしそうに笑っていた。    ――聞こえてるよ、ばかっ……!!    希望はぎゅっと奥歯を噛んでライを睨もうとした。何度も、そうしようとした。  けれど、揺さぶられる度に目の前が白く弾けて、甘く媚びた声が漏れる。奥歯を噛み締めてなどいられないし、睨んでいるつもりでも、潤んで蕩けた瞳は視界がぼやけている。    もうどうしていいかわからなかった。    だめ、やめて、と言いたいのに、口を開けば嬌声に変わって意味をなさない。  抜いて、退け、と抵抗したいのに、身体はビクビクと快楽に震えるばかりで思い通りに動かない。    それでも、両手が最初から自由だったら、逃げられたはずだ。  こんなことまで、恋人じゃないのに、許すつもりはなかった。   「あっ、あぁ……! ……うぅっ……、ん、んぅっ……!」 「……?」    Tシャツが絡まったままの腕を、何とか持ち上げて、ライの胸を殴る。殴ったつもりだったが、とすっと当たっただけだ。それでも希望にとっては精一杯の力を込めた。  ライは僅かに視線を向けると、ぐいぐいと胸を押す両腕に気づいて動きを止め、「ああ」と頷いた。   「邪魔だった?」 「……っ……うぅ、んっ……!」    取ればいいのに、と少し笑って、ライは丁寧にTシャツを解いて、投げ捨てる。  あっさり解放されたことに希望はきょとんと目を丸くしていた。淡いものの、赤く擦れた跡をぼんやりと眺めて、はっとする。   (……に、にげれる、かも……?)    自由になった手をライの両肩に置いて、押し返そうと僅かに力を込める。けれど両手はあっさりライに掴まれて、片手の甲にはキスを落とされた。   (え? あ……)    ライは手のひらにも同じようにキスすると、視線だけを希望に向けた。鋭い眼差しには熱が孕んでいて、思わず心臓が跳ねる。  希望がぽーっと見惚れていると、ライは希望の両手の指と自分の指をそれぞれ交差させるように握り、手のひらを合わせて、そのままソファに押し付けた。   「んっ、やっ……! あぁっ! ァアッ! あぁんっ!」    再び揺さぶられて、希望は、ぎゅっとライの手を握りしめる。ああ、ああ、と甘く鳴きながら、視界の端でそれが映る。  屈辱に涙が零れそうだった。    ――ひどい、ひどい、こんなの。    ライと希望の体格差で上から抑えられては、押し返せない。  もっと手首を掴むとか乱暴に、それこそさっきみたいに拘束されている方がマシだった。  恋人みたいに指を一つ一つ丁寧に絡めて抑えられたら、ぎゅっと握りしめるしかない。  これではまるで、自分が望んで抱かれているみたいじゃないか。   「あっ! あんっ! やっ、あぁっ! んっ……! あっ、ああっ!」    ひどい。  望んでなんかない。許してなんかない。  恋人じゃないのに、こんなの。  ずるい。  ひどい。    悔しい。気持ちいい。違うのに。ひどい。でも。    未知の感覚が迫っていることが怖くて、希望は拒むように首を振った。   「……っああっ! んっ……あぁっ! ァアッ……!!」    心に反して、身体は追い詰められていく。揺さぶられて気持ちよくて、奥にどんどん溜まって膨れていく。ライの手で何度も達した時よりも、ずっと大きく、怖いくらいに膨れていく。  チカチカを目の前を火花が散る。限界を迎えようとして、今にも弾けそうだった。   「いきそう?」    低く響く声に背筋がゾクゾクと震える。希望はライを見つめて、素直に何度も頷いた。  いきたい。怖い。気持ちいい。全部込めて、ライを縋るように見つめる。   「口開けて、舌出して」 「んっ……! あっ……んんぅっ」    ライの言葉に戸惑いながら、何度も口付けを交わして気持ちよくしてくれたことを思い出して、従った。唇を封じられて、舌を吸い絡めて抗議もできず、呼吸のタイミングさえ支配されるのに、それでも差し出してしまった。  けれど希望は、逃げられないことにむしろ安堵していた。  逃げられないから、快楽に身を委ねてしまうしかないということに、安堵した。    ――も、いくっ! いっちゃうっ……!   「ンンッ! んっ、んぅ……! んぁっ……! んんぅ――ッ!!」    ビクッと希望の腰が跳ねた直後、ライが希望の両手を解放して、その背中に腕を回した。ソファから少し背が離れて浮くくらい、強く抱き寄せて、ビクビクと震える腰を抑えつける。   「――ぁあっ! ひぁっああっ……! っ……!!」   (い、ってる、のに……っ奥に……っ!)    腰を強く抱き寄せ、達して痙攣する中、奥の奥にぐりぐりと押し付けられて身体がビクビクと震える。希望の腰が跳ねるのを抑え込んで、より強い雄に塗り替えられて叩き込まれる。   「ぁあっ……! あんっ…ま、だいって……ひっ……あぁっ……ああっ……!」    ゴムをつけていているというのに、雄の精を注がれているかのような感覚に、身体は悦び震えていた。   「あっ……! あぁんっ……ぁあっ……はぁっ…んぅ、んんっ……」    痙攣が止まらず、目の前はチカチカと弾けて、頭は真っ白だ。抱きしめられたまま、希望はしばらく戻ってこれなかった。

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