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第24話 猟犬様のお気に入り③

 なんでこんなことに。    何度目かわからない疑問に答えはでなくて、ぐるぐると頭の中を回っている。  いつ誰が入ってくるかもわからない、薄暗い室内で何をしているんだ。何を、させられているんだ。  希望のこれまでの倫理から大きく外れた状況に、頭の奥がぐらんぐらんと揺れる。    震える指先でボタンを外して行く間、ライは円卓に座ってじっと希望を見つめていた。じっとりとした視線の重さと、自ら服を脱がなければならない恥ずかしさに、希望は思わず背を向けた。    ライの視線から逃れると、代わりに希望の視界に扉が映った。扉までの距離は思っていたほど遠くはない。ライの腕の中から逃れた今なら、たどり着けるような気がした。   「外がいい?」    希望がビクッと肩を震わせて振り返ると、ライと目が合った。目を細めて、ゆったりとした様子で希望を見つめている。 「な、なに……?」  ライがゆっくりと立ち上がって、希望の元へ歩み寄る。薄暗い室内よりもずっと暗くて濃い色の尻尾が、ゆらりゆらりと揺れている。   「俺はどこでもいいんだけどさぁ、……外がいいの?」 「……っ!」    僅かに膨らんだ逃亡への光が、ライの暗い眼差しと声でパチンと弾けて砕けていった。        大人しくなった希望が、やたら丁寧に折り畳んだ衣服を見て、ライが少し笑う。  そんなに破られるの嫌だった? と笑う男に、怒りがこみ上げるが、何も纏わない姿のなった自分が何を言ってもこの人は笑うだろう。希望は、答えたくない、と主張するかのように、ぎゅっと口を噤んだ。   「まあいいや。そこ、座って」   「脚開いてよ」と楽しそうに付け加えたライに、睨むだけで抵抗を諦めた希望は、命じられるまま、椅子に腰をおろした。  椅子というより、ソファのようだ。しっとりとした革に触れると、少し冷たくて柔らかくなめらかな手触りだった。こんな状況じゃなければ、ずっと撫でていたくなる。包み込むように柔らかいけど、弾力があり、沈み込むことなく受け止めてくれた。  その上で、大きく足を開いて、受け入れやすくなるように、柔らかな背もたれに身体を預ける。    ……ほんとに、何してんだろう、俺。    誰も助けには来ないかもしれないけれど、誰がいつ入ってきてもおかしくないような場所で。  弄ばれてぷっくり膨らんだ胸のピンクも、キスだけで震えながら頭を上げ始めていた中心も、その奥の蕾さえも自ら晒している。   「…ひっ……っ」    ライが小瓶を取り出し、中の液体を希望の秘奥に垂らす。とろりとした液体は雄を受け入れるためのものだ。ライの指先にも液体が纏い、薄暗い部屋の僅かな光に反射し妖しく光っていた。   「…ッ、んんぅ…っ」    ライの指が希望の蕾の周りをゆっくりとなぞる。ひやりと冷たかった液体は体温で暖められていく。  そして、ついに中へと入り込むライの指に、思わず「あぁ…っ」と声が溢れた。   「いやっ…あぁっ……あぅっ…んっ……!」    一本二本、と増やされても、きゅうきゅうっと締め付けて飲み込んでいく。静かな室内に響く濡れた音と指の動きに合わせて震える身体が恥ずかしくて、両腕で顔を覆った。   「隠すなよ。こっち見ろ」 「やっ、やだっ…あっ…ぁあ…ンッ…んんぅ…!」    ライに腕を掴まれて暴かれ、唇を奪われる。    あぁっ…いや、なのに、これ…っ    熱くて、気持ちいい。舌が絡み合って、全て溶け合うみたい。  必死に繋ぎ止めてる理性も正気も飲み込まれていく。抵抗の意思も拒む言葉も奪われる。呼吸さえも支配されてしまう。  キスと秘奥を犯す指に翻弄され、びくびくと身体を震わせることしかできない。  いっそのこと理性や正気を投げ出せたらどんなに楽だろう。   「んっ、あぁっ…! はぁ……っ」    正気を押し流される前に、唇を解放された。同時に、執拗に中を弄んでいた指も抜き去られる。    ……怖い。    これまでは前戯に過ぎず、これから何をされるか知っている。  不安と恐怖に、呼吸が荒くなって、乱れていく。胸が大きく上下し、みるみるうちに瞳が潤んで視界が滲む。  心臓が高鳴っていく希望の目の前で、雄の象徴が、まだ暴かれて間もない蕾に押し当てられた。   「あっ…待って、まっ…ンッあぁっ、アァッ!」    丹念に慣らされたそこは、戸惑う希望を差し置いて、強引で凶暴な熱を受け入れる。押し広げていく情欲の固さと大きさを味わうように、キュンキュンと締め付けて応えようとしていた。   「あぁっ、やっ…! あっ、あぁっ! ンンッ…あんっ、ぁあっ!」    ライもまた、悦び締め付ける中を味わうように、ゆっくり引き抜き、一気に奥を貫く。ライが奥を突く度に声が漏れ、背筋に快感が駆け抜けていく。希望は揺さぶられながら、必死にライにしがみついていた。  快楽の波に飲まれていく希望の耳元で、ライがはっ、と小さく笑った。   「そんな声出してたらさすがに誰か来るぞ」 「…っ! …んッ…んん…あっ! やぁっ…あぁっ!」    はっと正気を取り戻した希望がきゅっと眉を寄せて、耐えるように唇を閉ざす。けれど、二度三度と奥を突かれ、胸の突起をきゅっと抓られただけで媚びるような声が零れて止まらない。  悔しくてライを睨む希望とは対照的に、ライは楽しそうに笑みを浮かべている。   「裸になって上官誘惑してるとこ、そんなに見られたいの?」 「なっ…! あ、あんたがやれって…! それに、無理矢理ここに連れてきたのも…っ」 「あんな馬鹿みたいに綺麗に畳んだ服見て、誰が『無理矢理襲われた』なんて信じるんだよ」 「……っ!!」 「それに」    ライが親指の腹で希望のしっとりと濡れた唇を撫でる。目を細めてうっとりと愛おしげに見つめるので、希望どきりとした。   「…ぁあッ!?」    ときめきを感じたのもつかの間、無防備に晒されていた胸の熟れた果実にライが触れる。唇を撫でた時のように、指の腹で、ぷっくりとした突起をくにくに撫でるように刺激する。  それに合わせて腰を動かし、下からも上からも、中からも外からも、希望を責め立てた。   「あぁんっ! やっ…あぁっ! …あんっ…! ぁあっ」    荒い呼吸に、甘い声が零れ落ちる。瞳もとろんと潤んで、目元はしっとりと紅く濡れている。   「やっ! やぁっ…! アァッ! あんっ…! んんぅっ…!」 「こんな顔して、脱いでんのも必死にしがみついてんのもお前だろ」 「ちっ、ちが…っ! んっ! ちが、うっ…! あっあぁっ」 「わかったから、ちょっと黙れ」 「んぅっ……!?」    ライが希望の両足を肩に担ぐようにして、より深く熱を穿つ。再び唇も塞がれて、希望の否定の言葉も、鼻にかかったような甘い声に変えられてしまった。   「んんぅ…っ! んあっ! んぅっ…ンッんぅーっ……!!」    キスされながら、達しても逃げられない。抑え込まれて藻掻くことさえ難しい。ライの望むままに、容赦なく奥を何度も何度も犯される。  激しい行為にびくびくと痙攣し、視界がチカチカと白く弾ける。それでも、希望を満たすのは苦痛なんかではなく、圧倒的な快楽の波だった。    怖いのに、嫌なのに。  どうしてこんなに気持ちいいの。  どうして、気持ちよくなっちゃうの?    ――あの日から、自分の身体じゃなくなったみたいだ。    たった一晩で、全部塗り替えられてしまった。  何をしても逃げられない。逃げられるかも、と思っても、その度に淡い期待は叩き潰される。圧倒的な雄を叩き込まれて、ねじ伏せられ、服従と快楽を教え込まれた。  逃げられるかもしれない、と思えるチャンスはいくつかあった。そのたびに逃げようとした。だけど、その逃げ道すらライが用意したものなのだろう。何度逃げようと無理だって、教え込むために。    怖いだけなら、希望は逃げることができただろう。決して屈しないぞ、負けないぞ、と誇り高き猟犬の血を奮い立たせて立ち向かったことだろう。  でも違った。ライが希望に与えたのは恐怖や屈辱だけではない。    怖いのに、嫌なのに、恥ずかしいのに、望んでないのに。  逃げたいのに。    身体が覚えている。  決して忘れない。忘れさせてくれない。    ライに全て奪われて、捻じ伏せられて、徹底的に犯されたとしても。  絶対に気持ちよくしてもらえるってことを。  恐怖と屈辱の記憶を塗りつぶすほどの、快楽を。

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