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第27話 仔犬ちゃんは諦めない③
ライの足元に、ぎこちない動きで跪いた。なんとか無事に帰りたい。とはいえ、どうしたらいいのかよくわかってはいなかった。
俯いていると、ライが笑った気がして顔を上げる。ライは希望を見下ろして、ニヤニヤと誂うような笑みを浮かべていた。
「よくやんの?」
「……? ……何が?」
「誰のでも咥えてんのかってこと」
「……はぁ?!」
言葉の意味を一瞬遅れて理解して、一気に頭に血が上った。
「こっ…こんなこと、するわけ……っ!」
「なんだ、自分で言い出したから慣れてんのかと思った」
「ふざけんな!」
「怒んなって」
希望は怒りで目元を紅く染め、目尻に涙が滲むほど睨む。
ライがそれを眺めて、軽く笑う。宥めるように、あしらうように、適当に頭を撫でるが、そんなことで希望の怒りは収まらない。
噛み千切ってやろうかこのクソ野郎……と怒りに燃えながら、乱暴にライのチャックをおろした。
「……ひんっ」
それを見た瞬間、希望はか弱く泣いた。
燃え盛る怒りの炎も一瞬で消し飛んでいく。
……おっきい。
希望は思わず息を飲んだ。
最強の猟犬に相応しい雄の象徴を前にして、希望は何故か妙に納得した。
……そりゃそうだ。ライさんが大きいんだからこれくらいの持っててもおかしくない。だってライさんだもん。
不本意とはいえ、今まで何度も見る機会はあったが、怖くてまともに見たことはなかった。それどころではない状況だったこともある。
「……っ」
ちら、とライの様子を窺うとやっぱりライは笑っている。侮られている気がする。そんな眼差しだった。
「どうしたぁ? やめる?」
「でっ……できる!」
やたら優しい声が許せなくて、悔しくて、希望はキッと睨むと、かぷっ! と思い切って咥えた。
「んっんっ…ンンっ…!」
両手を添えて、口の奥まで入れたり、引いたりを繰り返す。
経験はなかったが、きっとこんな感じで合っているはずだ。少しずつ固さを増し、雄の味が口内に広がるのを感じて、希望はほっとした。
このまま最後までできれば……。
……あれ?
え?
まだおっきくなるの?
うそ、え? ほんとに?
熱く固く怒張したそれを改めて見つめて、希望は目を丸くした。
口にぜんぶ入らないし、浮き出る血管が生々しく、自分のそれとは違う気がする。
こっ……こんなの俺のお尻にぶち込んでんの?!
凶器じゃん!!
ひ、ひどい……なんてことするんだこのやろう……!
目の前の凶器が自分の秘奥を犯す想像をして、希望は血の気が引いた。息を飲んでじっと見つめ、もう一度咥えて上下に擦る。
「んぅっ…はぁっ…ンン、んっ…!」
できるだけ奥まで咥え込んで、じゅぷじゅぷと擦りあげる。届かないところは一度口から出して、キスするように吸い付き、丹念に舐めた。
こんなの挿れられるからおかしくなっちゃうんだ!
やっぱりもう絶対、ヤラせちゃだめだ! ここで満足してもらわなきゃ!
「…ンンッ…! ……んぅ……?」
奉仕に夢中になっていたので、希望はライの手が自分に伸びてきていたことに気づかなかった。
ライの手が頭に触れたところで気付いて、ライを見つめる。ライのものを奥まで咥え込んでいるせいで少し苦しく瞳は潤み、顔を上げられないから上目遣いになっていることに希望は気づかない。
何をされるんだろう、と少し身構えたが、ライの手は柔らかく希望の頭を撫で、耳のあたりを少し擽った。
「んっ…んぅ……?」
大きな手の心地良さに希望は目を細める。
擽るように撫でられているうちに、奉仕に夢中で追い詰められていた神経が緩んでいく。
緊張が和らぐにつれて、ライのものを無意識にゆっくりと吸いながら舌でじっくりと舐めるように扱うようになっていた。
しばらくの間、ライの手は離れなかった。
耳の付け根を指先で揉みほぐすように。顎の下を、首筋を、擽るように。
弄ばれて与えられる激しい快楽とは違う、暖かく柔らかい刺激と気持ち良さに、希望はとろんと溶けそうになる。柔らかく解かされて、ぼんやりとした頭で考える。
――そういえば。
あの日からあんまり撫でてくれなくなった。
いっぱい撫でてくれて、触ってくれたのに。
ふと気づいて、きゅうっと胸が締め付けられる。
今は弄び、蹂躙する時しか触れてくれない。
こんな爛れた関係になる前の、からかい試すような、優しく擽るような、ライの不思議で気紛れな撫で方が好きだったのに。
――……お口でしたら、今でも撫でてくれるのかなぁ。
そこまで考えて、希望ははっとした。
何を考えてるんだ、と自分を叱咤する。
本当ならこんなことしたくない。しちゃいけないんだ。恋人でもないのに、なんでこんなこと!
だけど、こうでもしないと、この凶悪で恐ろしいもので酷いことされる。だから仕方なく。そう、仕方なく。
ぐるぐると誰に対してかわからない言い訳をしていると、軽く後ろに引っ張られた。
「ん、ぷぁっ……、……?」
優しかったライの手に、急に髪を引っ張られて驚くが痛みはなかった。けれど、ずるん、と口からライのが外れてしまう。
希望は首を傾げて、不思議そうにライを見上げた。
ライは笑っていた。
それがいつもより優しい気がして、希望はくらくらしている頭で、何故かぼんやりと「褒めてくれるのかな」と静かに胸が弾んだ。
いっぱい撫でてくれるかもしれない、という淡い期待を胸に大人しく待っている希望に、ライが、はっ、と笑った。
「下手くそ」
意地悪な、嘲るような軽い笑い方だ。いつものやつだ。
反撃しなきゃいけないのに、もう慣れたはずなのに、砕け散った期待が希望の胸を僅かに傷つけ、一瞬息をするのも忘れた。
「…っあ…ご、ごめん…っ」
「もういいから、立て」
「えっ! あ、まって」
腕を掴んで引き寄せられる。また壁に押し付けられて、希望は慌てて後ろのライに腕を伸ばした。
「まっ…あぅっ……」
けれどライの腕が希望の首に回って、抱き寄せられる。ライの身体と壁に抑えられて身動きが取れなくなった。
「ま、まって、ライさんっ…まっ…ひゃぁっ!?」
下着ごとズボンをずり降ろされて白い双丘が露わにされた。割れ目に冷たい液体が垂らされ、流れていく感触に希望は悲鳴を上げた。
残された片手でライの身体を押し返そうとするが、逆に壁に押し付けられてしまう。
「まって、まって、おれっちゃんと……!」
「そんなに咥えたい?」
「っ……う、んぅ…」
小さく頷くと、はは、とライが笑って、やや乱暴に希望の首に回されていた腕が緩んだ。その腕で希望を抱き寄せて、首筋にキスを落とす。
不意に与えられた柔らかい擽ったさに、希望の身体がびくっと震えた。
「んっ」
「わかったって。今度教えてやるから落ち着け」
「ちがっ…あ、やっ…あぁっ! や、あぁんっ……!」
ライの手が双丘の奥に伸びて、秘奥の中までぐちゅぐちゅと潤滑油を塗り込む。浅いところから、指で届くギリギリの奥まで、丹念に広げて液体を流しこむように動く。
ライを押しのけるために背後に伸ばした希望の腕は、ライにしがみついて役割を果たせなかった。
「やっ、ぁあっ! まって、まって…ああっ……!」
「手」
「えっ……?」
「手、邪魔。こっちにしとけ」
ライは希望の手を握って、壁に押し当てた。ライの大きな手が希望を手を覆うように抑えて、離さない。
……おっきい。
しっかりと握られて、捕まってしまった自分の手を見て、それだけで、希望はもうどうしていいかわからなくなってしまった。
「あっ、まっ…ん、あぁっ…!」
丹念に開かれた蕾から指が抜き取られ、代わりに熱いものを押し当てられた。
それだけで、つい先程まで間近で見せつけられていた情欲の形や熱、大きさが生々しく鮮明に蘇る。心臓が高鳴り、期待と不安で背筋がぞくぞくと甘く痺れていく。
「あっ、ま、まって…あぁんっ!」
希望の手を壁に縫い付けていたライの手が離れても、希望は壁に手をついたままだった。ライは両手で希望の腰を引き寄せて、より深く、中を犯す。
「あぁっ! あんっ……! やぁっ…ぁあ! はぅっ…んっ!」
――はいっちゃったぁっ……!
自分の嬌声と身体のぶつかる音が響いて、今日も自分の誇りを守れなかったことを思い知らされる。
なんで? なんでいつも、こんなことになっちゃうの?
「口でさせて」なんて、恥ずかしいことも言って、やって……なんで!?
「あっぁあ! あぁっ! あっ……ンンッ!?」
喘いで開きっぱなしの口に、突然ライの指がねじ込まれた。
ライの長い人指指と中指が無遠慮に奥まで侵入し、口内を探るように蠢いている。意図が掴めず、ただ苦しくて、混乱した。
「ぁんっ、う、ぇっ、ンンッ…んぅっ?」
「……次、ここ使う時さぁ」
ゆっくりと、低く静かな声が耳元で響く。
ライの声に意識が集中していたが、ライの指が希望の舌の奥を強く擦ると、ぞくり、と背筋を得体のしれない感覚が走った。
「んんぅっ……!?」
「あ、ここイイ?」
こっちも締まった、とライが希望の形の良い尻を撫でる。
「次使うなら、奥使えよ。ここ、イイんだろう?」
「んぅっ! んぁっ、ぁあっ、んんっ!」
――イイってなに? 口の中が……?
そんなわけない、そんなこと…あるわけ……っ
希望は否定したが、秘奥を犯されながら、同じように口内を弄ばれて、ぞくぞくと身体が震える。同じように、背筋を震わせて、声を上げてしまっていた。
その中で、ライが腰から尻を撫でる。
「ひっ、んんっ」
「お前こっちも奥が好きだし、ここもそうだろ?」
「んぁっ! んっぁあっ! ンンッ…っんぅっ!」
誇りを穢され、快楽と息苦しさでぐらぐら揺れる頭では、容易くライの言葉が染み込んでいく。
――ほ、ほんとに……?
意識してしまえばもう戻れなかった。
得体のしれない感覚を、明確に『気持ちいい』と認識してしまった。新しく目覚めた感覚はひどく衝撃的で、戸惑う希望を置き去りにして、すでに身体は全て受け入れている。
心が追いつかなくとも、身体が染まれば心も塗り潰されるのも時間の問題だった。
逃げようとしたことも、逃げれなかったことさえも、思い出せないくらいに乱されて、気付いた時には果てていた。
抱き尽くされた希望は、ぐったりと壁に寄りかかるように座り込んで、息を乱している。
焦点の合わない瞳はまだ、情事の余韻にとろんととけていた。
ライは希望と目線を合わせるようにしゃがみこんで眺め、パタパタと尻尾を振って笑っている。
「今夜空いてる?」
「…んっ、ん……?」
希望がぼんやりとした小さく頷くとライはより目を細めて深く笑った。
希望の頭を軽く撫でて、「夜、部屋で待ってな」とライはその場を去っていく。希望は、ライに触れられた頭に触れて、またしばらくその場で呆然としていた。
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