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第37話 仔犬ちゃんは夢を見る④

『……希望、大丈夫? なんか疲れてない?』    ――俺、疲れてるのかな。……そうかもしれない。    ライの言葉に逆らえなくなっていく。  もともと逆らえていたかと問われれば微妙なところだが、それでも全力で抵抗はしていた。必死に暴れて、言い返して、逃げようとした。  けれど、今はもう都合よく流されてばかりだ。    もちろん、最初は拒むけど、それでもライの低く甘い声に囁かれ、力強く抱き寄せられてしまえば、もうどうにもできない。どうしていいかわからなってしまう。気付いたら取り返しがつかないくらい乱されて、逃げられなくなっている。    どうして拒めないんだろう?  抵抗しても無駄だって何度も何度も身体に教えられたから?  何をしても結局ぜんぶ塗り潰すように、気持ちよくさせられるから?    今だって   「あっ…ッ……あんっ……!」    たまには自分で動いて見せて、と言われて、恥ずかしくて嫌なのに、「上手にできたら今日は帰してあげる」と囁かれて、……絶対に嘘だってわかってるのに……今こうして、彼の望みのままに跨って、腰を振っている。   「はぁっ…んっ……! あぁっ…あっ! …ンンッ!」    両膝を立て身体を支えて、上下に動く。膝がガクガクと震えて今にも崩れ落ちてしまいそうで、希望は震える腰をゆっくりと沈めていく。半分程度まで腰を沈めて、すぐに腰を浮かせて引き抜いていった。   「ひっ、アァッ!?」    急に伸びてきたライの手が希望の尻尾を強く掴んだ。希望は大きく仰け反り、ビクンッと震えるが、辛うじて腰を落とさず耐えた。  とはいえ、尻尾をぐいっと引っ張られたまま、反対の手が臀部をじっくり撫で回すので、ライを受け入れたままの中は、きゅうきゅうと締め付けて痙攣している。  貰ったばかりの淫靡な液体をたっぷり使っているから、少しでもバランスを崩せば固く熱い楔が深く奥まで貫いてしまうだろう。  希望は力の入らない足をふるふると震わせて耐えていた。   「ンッ…も、は、なしてっ……」 「何考えてる?」 「え? あっ! あんっ、ンンッ……?」    希望が潤んだ瞳でライを見つめる。首を傾げ、乱れた呼吸を整えるようにゆっくり大きく胸を上下させる。そんな希望を見つめ返し、ライはそっと希望の腰に両手を添えた。  尻尾が解放され、腰も支えられたことで少しほっとしてしまう。   「お前、いつもごちゃごちゃ面倒なこと考えてるよな」 「んっ、な、なに……?」 「手伝ってやろうか?」 「……っ?」    腰を支えていたライの手が、ぐっと希望の腰を掴む。   「届いてないだろ? ここ」    ばちゅんっ、と下から突き上げられ、同時に掴まれた腰は下へ落とされた。腰を落としたことで、熱くて固い欲が最奥を容赦なく突く。   「~~ッ……あッ……!!」    希望は堪らず、ライの胸に倒れ込んだ。頭の先まで快楽の衝撃で撃ち抜かれて、視界がチカチカと白く弾ける。  けれど、大きく発達した厚い胸板に触れると、その逞しさに何故か安心して、力が抜けていく。はぁ、と息をついて縋り付き、顔を埋めた。  その途端、また下から強く突き上げられる。何度も何度も、強く突き上げてくる。   「アッ! あぅっ! あぁ! ま、待っ…ンン! んっ、んぅっ…ンッ!」    抱き寄せられて、されるがままに口づけをする。口内も蹂躙されながら、厚くて大きい舌が心地よく、美味しそうに吸い付いて離れられない。  厚い胸に、太い腕に、クラクラと頭の奥が揺れて、溶けていく。必死にしがみついて、甘えるように縋る。   「んぅ! っふぁっ、あぁっ! ああっ……」    離れてしまった唇に、名残惜しそうな声を漏れる。ライの腕が背中に、反対の手は後頭部に回って、抱き寄せられる。耳元にライの唇が寄せられ、希望はそれだけで秘奥をきゅうっと締め付けてしまう。   「余計なこと考えるなよ。もっと楽しめば?」 「――っ……!」    溶けて揺れる不安定な頭にも、ライの低い声はよく響く。    ――楽しむって何だよ!    熱と欲でぐちゃぐちゃになっていたのに、胸が軋んで、希望はぎゅっと眉を寄せた。   (ライさんのとっては遊びでも、俺にとってはっ……!)    ――……あれ?      ――俺にとっては、何?     「……アァッ!? あっあっ! ん、ヒッ、ああっ!」    楔を穿ち、絶え間なく与えられる刺激に希望の意識は快楽の波に飲まれていく。  何もわからなくなる。    なんで俺、必死になって抵抗してるんだろう。  何で、嫌がってるんだろう。  許しちゃいけない? 拒まなきゃいけない?  なんで?  恋人じゃないから?  でも      『だから、なに?』    頭の中のライさんが笑った。      はっとして意識が現実に戻る。乱されて喘ぐしかできない自分を、ライが笑って見ている。  もう何がなんだかわかんない。飲まれてしまいたい。何も考えたくない。  ただ、ただ。   「気持ちいい?」    ライの囁きで最後まで必死に掴んでいた理性を手放した。   「きっ…きもち、いっ…きもちいいっ……!」    言葉にしたら、認めてしまえば、何ということはなかった。怖くない。苦しくない。堰き止めていたものは解放されて、ぜんぶぜんぶ塗り潰される。  希望もまた恍惚の表情を浮かべてライに応えていた。   「気持ちいいの?」 「イイッ、きもち、いいっ…あっああっ…! イク、イクッ…ンンッ! アンッ! ああ!」    ライが軽く笑った気がしたが、今の希望には届かない。  ただ、激しく揺さぶられながら、自身も腰を振って快楽を貪る。ライに縋り付いて、甘ったるい声で喘ぐ。  蕩けて涙で滲む視界では、ライが口元を歪めて、笑っていた。   (……ああ、好き)   「好き?」 「……っ!?」    一瞬、息が止まった。  心の呟きと現実のライの声が重なる。    ――好き? 何が?   「……気持ちいいの、好き?」 「……っ…うんっ…! 好きっ…すき…っ、あっあ! アァッ! …ライさっ…ぁあんっ! ライさんっ…あぁっ! アァッ!」    続いたライの言葉に、ほっとして身を委ねる。なぜ安心したのかわからなくて、僅かに湧いた疑念は、波に飲まれて戻ることはなかった。

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