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第32話
美風自身を愛してる。その言葉が美風の脳内でリフレインする。
これまでに美風自身を見てくれていた者は祖父と翔馬だけだったが、美風が本当は魔物でしたとなればどうだろう。真っ直ぐに美風を見てくれるだろうか。いくら祖父でも、直ぐに受け入れてくれるかは難しいかもしれないと美風は思った。
魔物らが普段から見えているなら、まだ話は通じるかもしれないが、人間だと思っていた美風を同じように見れるかは分からない。
それなのにアリソンはその壁を容易く消し去った。何者であろうとミカ自身を見てくれていると。そんな究極の告白を聞いて嬉しくない者がいるのか。中には嬉しくないという人間もいるかもしれないが、美風は確実に嬉しいと思っている。
容姿しか見ない人間に囲まれて育ってきたせいもあり、アリソンの言葉は美風の心に深く深く刺さった。
「ありがとう……アリソン」
顔を上げて、目を見て言うべき言葉なのに、顔を上げられない。上げた途端に涙が零れそうだからだ。
その時、周囲から拍手が起こった。何事かと顔を上げれば、見ず知らずの人たちが美風らを見守るように手を叩いていた。
「おめでとう! お幸せに」
「素敵なカップル」
祝福の言葉まで掛けられ、美風は一気に現実へと戻された。
そうだ、ここは公道だ。まだ家ではなかった。
美風の顔は瞬時に熱を持ち、直ぐにアリソンの手首を掴んだ。
「す、すみません、こんなところで。お騒がせしましたっ」
アリソンの手首をグイグイと引っ張り、公園内に逃げ込む。
見ず知らずの人らとはいえ、温かい言葉は素直に嬉しかった。同性同士で偏見もまだまだある中で、心が温まる思いだった。とはいえ、やはり恥ずかしい事がそれを上回り、美風はひたすらとあの場から離れようと突き進む。
「ミカ、急にどうしたのだ」
「きゅ、急にって、みんなに見られてたんだぞ。恥ずかしいだろ」
それに完全にカップル認定だ。アリソンの想いは嬉しい気持ちはあれど、まだ美風にはアリソンへの気持ちがしっかりと断定出来ない。だからあそこで〝ありがとうございます〟など言えなかった。
「別に見られていようが、構わないだろ。もう会う事もないだろうしな。それでも気になるなら、奴らの記憶を消してやるが」
「え、消す!? そ、それはいいよ。確かにもう二度と会わないだろうし」
アパートの鍵を開けて中に入るとホッとする。ホッとしたのも束の間。部屋へ上がった瞬間、アリソンに後ろから抱きしめられた。
「ア、アリソン? どうしたんだよ」
「それで? ミカは何を悲しんでいた? 誰だ? あの人間か」
耳元で甘く囁くように言っているのに、殺意がひしひしと伝わり美風は身震いを起こした。
「あ……えっと、あれだよ、ケンカ。よくある事だしさ、気にしないで。心配かけて本当に悪かった」
生気を吸われたら何となくの状況は伝わってしまうのだろうが、美風の思いをアリソンはきっと無視することはしないはずだ。美風はアリソンの腕から抜け出し、目でも訴えかけていく。
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