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第33話
アリソンは暫く美風と見つめ合っていたが、根負けしたかのように長い息を吐き出した。
「そうだったか。と、納得出来るものではない。だがミカはこの事に触れないで欲しいのだな」
「うん……ホントにごめん」
小さく頭を下げる。
「ミカが悲しんでいると分かっているのに、俺は何も出来ないのか……」
神妙な面持ちでそうこぼすアリソンだが、美風はそれを否定するために首を振った。
「オレ、さっきアリソンが来てくれたとき、すげぇ嬉しかったんだ。それだけで気持ちがめちゃくちゃ楽になった。だから本当アリソンのお陰。悲しい気持ちなんて吹っ飛んだ。来てくれてホントにありがとう」
「そうか」
今度こそアリソンは嬉しそうに安堵の微笑を浮かべた。
これは嘘偽りのない本当の気持ちだ。だからアリソンにもちゃんと伝わったのだろう。
線引きしなければという思いはまだある。でもアリソンが居ないと駄目になるのは、もしかしたら美風の方なのかもしれなかった。
夜、布団に入ると、美風はずっと存在を無視していたスマホを手に持った。
メッセンジャーアプリにメッセージが届いてる。翔馬からだ。アリソンが居なければきっとメッセージを開くことはしなかっただろう。でも今は気持ちも随分と落ち着いているため、美風は直ぐにメッセージを開いた。
謝罪と明日の朝、講義が始まる前に話がしたいという旨が書いてある。美風は了解とだけ返して、直ぐに電源を落とした。光が漏れるとアリソンが気にするだろうと思ったからだ。
翌朝、美風と翔馬はキャンパス内のベンチに無言で腰を下ろした。校門前で会った時から翔馬は重苦しい空気を纏っている。
「……美風」
「うん」
翔馬が話しやすいようにと、声のトーンには気をつけて返事をした。それが効いたようで翔馬がホッと息をつくのが分かった。
「昨日は……本当に悪かった。ごめん。傷つけるつもりはなかったんだけど、これは言い訳で美風をめちゃくちゃ傷つけた。でもさ、おれらは中学ん時からずっと一緒で、美風の隣はおれだけだって思ってたんだよ。それが途中から現れた怪しげな男に、美風の隣を奪われそうで焦ったんだ。どうにかしてアイツを排除したいと思えば思うほど気ばかりが焦ってさ……あんなこと言っちまった」
翔馬の沈んだ声は初めて聞くかもしれない。それほどに翔馬の後悔の念が美風に伝わった。
「昨日言われた事は本当に頭にきたし、悲しかった。ずっと親友だと思ってたのにって。でもさ、こうして翔馬は反省してるわけだし、グズグズといつまでも根に持つのはオレの性分じゃねぇ。だからこの事は今ここで綺麗に解決だ。アリソンの事もさ、好きになれとは絶対に言わないし、仲良くなれとも言わない。ただアリソンの存在は認めてほしいんだ。今のオレにはそれだけでも本当に嬉しいからさ」
一気に話す美風の言葉に翔馬は一喜一憂しているようだ。だけど許せてもらえた事が大きかったのか、翔馬はアリソンの事も渋々とだが頷いたのだった。
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