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第37話
「今ちょっとでもオレから生気を取って──」
言い終わる前に唇が重なっていた。
鬼気迫る大変な時だが、方法がこれしかない。いつもとは違い、官能的な空気は皆無で一気に吸われていく。
「ん……」
強い目眩が起き、少し辛いと感じたとき唇が離れた。
夜でも眩いほどの白銀が現れ、青い目がキメラらを捉える。すると通りにいるキメラたちが騒ぎ出した。アリソンが言うところの微々たる魔力では反応がなかったキメラが、本能からなのかアリソンの魔力に明らかに恐れを見せている。
右往左往と落ち着きがない中、しまいには逃げようとキメラが動き出した。
「逃げられると思うなよ。ミカの髪一本触れた罪は、重いぞ」
アリソンから立ち上る気が、自身の髪と服を舞い上がらせる。そして強烈な衝撃波のような空気の歪みが生じたと瞬間、キメラ六体が跡形もなく葬り去られた。灰となるわけではなく、一瞬で肉体が消滅したのだ。
「……すご……」
生気を一気に吸われたせいで身体に力が入らず、美風は四つん這いの状態で口を半開きにしていた。アリソンの姿と魔力に圧倒された。その後姿に見惚れてしまう。
(今のでどれくらいの魔力なんだ……)
しかし魔力の消費が大きかったせいで、アリソンの髪は直ぐに黒くなる。その刹那、大きな身体が少し揺らいだ。
「アリソン!」
力が入らなかったはずの美風の身体は瞬時に動く。アリソンへと飛びつくように駆け寄り、その身体を支えた。
「大丈夫か?」
「あぁ……すまない。さすがに微力な力で六体はキツイな」
「アリソンちょっとそこに腰を下ろそう」
直ぐ横のベンチにアリソンを座らせる。本当にキツイようで自力で立つことも辛いようだ。
急場凌ぎの生気と不完全な魔力で六体も倒すなど、やはり厳しすぎたのだと美風の心は痛んだ。
「アリソン、ごめん。オレのせいで……」
「ミカ」
項垂れるように頭を下げた美風の頬に、アリソンの冷たい手のひらが触れる。そして顔を上げさせられた。今は黒に戻った目が美風を温かく見つめている。
「謝るのは俺の方だ。完全な力がないせいでミカに負担ばかりかけている。すまない」
美風は直ぐに首を振る。アリソンが謝る事など何一つないのにと。
「本当に不便なものだな。魔力は一瞬上げる事が出来てもそれが維持出来ないのだから。一定の力で一応固定されているようだが、補給しなければ減っていく。減るとやはり身体が重くなる。忌々しい」
アリソンは自身の右手を開いたり閉じたりしていたものを強く握りしめ始めた。そこからポタポタと赤い滴が落ちていく。
「アリソン! 血が」
やめさせようとアリソンの指を開こうとするが、美風の力では開くことが出来ない。
「アリソン手を開けって!」
しかも美風の声が全く届いていないようで、アリソンの目はどこか虚ろげだ。
「早く我に力を返せ」
小さく呟かれた声。
「え?」
なんだとアリソンへと顔を寄せたとき、美風の肩に重みが加わった。
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