38 / 123

第38話

 アリソンが美風の肩に頭を預けた状態でぐったりとしている。 「……アリソン?」  かける声に震えが混じる。 ──怖い。アリソンを亡くすことが怖いと、美風の身体は震え出した。突然この大きな存在が、目の前からいなくなるなど考えられない。  もちろん本気でアリソンが死ぬなどとは思っていない。だけどいつも強く逞しい姿しか見てなかっただけに、アリソンの弱った姿はダメージが大きかったのだ。 「アリソン、しっかりしろ!」  美風は弱気になるなと自分を叱咤し、アリソンの頬を何度か軽く叩いた。 「ん……」  少し唸ったアリソンに、美風は堪らず嬉しさで神に感謝した。 「アリソン!」 「……大丈夫だ……少し身体が重いだけだ」  そうは言うが、意識は何とかあるものの、目が開かない。大丈夫だと言われても少しも安心出来ない。その目を開いて自分を見てほしいと、美風はアリソンの目元に指で触れた。 「生気を取ってくれ」  そうすればアリソンは回復するのだからと美風は言うが、アリソンは緩く首を振る。 「……駄目だ……さっき貰った」  確かに今の美風は万全とはいえない。一気に生気を吸われた事でまだ全身は重だるい。でも今のアリソンの事を思うと、自分の状態など些細な事でしかない。 「大丈夫だって。それにオレが身体動かなくなるくらいどうってことない。栄養のあるもの食べたら直ぐに回復するんだからさ。だから早くオレから取れって。血でもいいし」  必死に美風がそう言うが、アリソンは首を横に振るだけだ。どうしてだと、美風は憤る。 「だってアリソンは生気を吸わないとずっとその状態なんだろ? 人間界(ここ)では今のアリソンは自然に魔力が回復しないんだから、どのみち補わないとダメなんだし、早く取ってくれよ」 「……それでも駄目だ。ミカからは取れない」 「アリソン!」  思わず美風は怒鳴ってしまった。そのためにアリソンの瞼が少しだけだが上がる。生気のない目なのに、どこか確たる強い意志が見える。 「いま……ミカから取れば……確実に殺してしまうからだ」 「そんな……丁度いい具合に止めたらいいだけだろ?」 「……無理だ。今ミカから生気を吸うと、身体が力を補おうと一気に生気を奪っていく。本能だと言えば伝わるか?」  本能だと言われてしまえば、もう何も言えなくなる。だけどこのまま黙って見てろと言うのか。人の生気を吸えばアリソンは確かに回復する。でもそれは殺人を容認することになるのだ。それは出来ないとジレンマに陥った。 「だったら……どうしたらいいんだよ」  途方に暮れて頭を抱えた。何かいい方法はないのかと必死に考える。

ともだちにシェアしよう!