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第38話
アリソンが美風の肩に頭を預けた状態でぐったりとしている。
「……アリソン?」
かける声に震えが混じる。
──怖い。アリソンを亡くすことが怖いと、美風の身体は震え出した。突然この大きな存在が、目の前からいなくなるなど考えられない。
もちろん本気でアリソンが死ぬなどとは思っていない。だけどいつも強く逞しい姿しか見てなかっただけに、アリソンの弱った姿はダメージが大きかったのだ。
「アリソン、しっかりしろ!」
美風は弱気になるなと自分を叱咤し、アリソンの頬を何度か軽く叩いた。
「ん……」
少し唸ったアリソンに、美風は堪らず嬉しさで神に感謝した。
「アリソン!」
「……大丈夫だ……少し身体が重いだけだ」
そうは言うが、意識は何とかあるものの、目が開かない。大丈夫だと言われても少しも安心出来ない。その目を開いて自分を見てほしいと、美風はアリソンの目元に指で触れた。
「生気を取ってくれ」
そうすればアリソンは回復するのだからと美風は言うが、アリソンは緩く首を振る。
「……駄目だ……さっき貰った」
確かに今の美風は万全とはいえない。一気に生気を吸われた事でまだ全身は重だるい。でも今のアリソンの事を思うと、自分の状態など些細な事でしかない。
「大丈夫だって。それにオレが身体動かなくなるくらいどうってことない。栄養のあるもの食べたら直ぐに回復するんだからさ。だから早くオレから取れって。血でもいいし」
必死に美風がそう言うが、アリソンは首を横に振るだけだ。どうしてだと、美風は憤る。
「だってアリソンは生気を吸わないとずっとその状態なんだろ? 人間界 では今のアリソンは自然に魔力が回復しないんだから、どのみち補わないとダメなんだし、早く取ってくれよ」
「……それでも駄目だ。ミカからは取れない」
「アリソン!」
思わず美風は怒鳴ってしまった。そのためにアリソンの瞼が少しだけだが上がる。生気のない目なのに、どこか確たる強い意志が見える。
「いま……ミカから取れば……確実に殺してしまうからだ」
「そんな……丁度いい具合に止めたらいいだけだろ?」
「……無理だ。今ミカから生気を吸うと、身体が力を補おうと一気に生気を奪っていく。本能だと言えば伝わるか?」
本能だと言われてしまえば、もう何も言えなくなる。だけどこのまま黙って見てろと言うのか。人の生気を吸えばアリソンは確かに回復する。でもそれは殺人を容認することになるのだ。それは出来ないとジレンマに陥った。
「だったら……どうしたらいいんだよ」
途方に暮れて頭を抱えた。何かいい方法はないのかと必死に考える。
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