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第50話

 長らく保っていた本来の姿のアリソンだったが、髪が黒く変化していった。魔力を使ったせいで、保てなくなってしまったようだ。 「顔を上げよ」 「はっ」  日本語が通じるようになったようで、アリソンの言葉に男は従い、顔を上げた。とても美しい翡翠色をした目がアリソンの姿を捉えた瞬間、大きく見開かれる。 「へ、陛下? 御髪(おぐし)と御目が……」 「その説明は後だ。先にお前に紹介したい者がいる」  アリソンはそっと美風の腰に手を当て、自分の横に立たせた。男はそこで初めて美風の存在に気づいたようで、怪訝そうに柳眉を寄せている。そうなるのは仕方ないなと思いつつ、それよりも気になるワードに美風の気もそぞろになっていた。 「彼はいま我がとても世話になっている男、天堂 美風だ。ミカと呼ぶがいい。そして何よりも、我の大切な人だ」 「……人」  男はそう呟き、美風を一瞥してからとても不可解そうな顔をした。魔族が人間を大切な人だと言うのだから、そうなるのは当然の反応だと思ったのだが、何やら少しニュアンスが違うような気もした。  だがそれも一瞬だけで、直ぐに男は片膝を突いたままで美風の方に向き直った。 「お初にお目にかかります。(わたくし)アリソン王にお仕え致しておりますラルフと申します。誠心誠意、ミカ様にもお仕えさせて頂きたいと存じます」 「は……え? お仕え? い、いえ、そんなの大丈夫です」  そう美風が言った途端、男……ラルフは衝撃を受けたかのように悲嘆に暮れ、肩を震わせた。今にも泣きそうな顔だ。 「申し訳ございません。私のような者がでしゃばった真似を」 「あ、いや……その、違って。とにかく顔を上げてください! 大丈夫って言うのは、オレはそんな偉い身分でもないので……」  救いを求めるようにアリソンの顔を見上げる。すっかり漆黒になってしまったアリソンの目が、何だかとても愉しそうだ。 「ラルフ、立て」  アリソンの命令に、ラルフは一瞬美風を見遣り躊躇したが、直ぐに腰を上げた。  近くに立ったラルフはアリソンよりも低いとはいえ、やはりかなりの高身長だ。 「とにかくミカは我の唯一だ。それがどう意味か分かるな? よくよく肝に銘じておけ」 「御意」  せっかく立ったのに、ラルフはまた膝を突いてアリソンへと敬意を表し頭を下げた。  この関係は誰がどう見ても主従関係にある。アリソンの一人称だって「俺」から「我」になっている。ラルフも何度もアリソンの事を一般では絶対に使えない敬称を付けている。 「アリソン……ちょっと質問いいかな」  美風の頬は盛大に引き攣っているだろう。アリソンも美風の言いたい事が分かるようで、にっこりと空々しい笑顔を見せてきた。

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