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第51話

 そのときラルフから息を呑む気配がした。 「……陛下が微笑まれている?」  信じられないものを見たと言った風に、ラルフは呟いた。今のは微笑むというのかと疑問に思ったが、そういう事ではなく、アリソンが表情をつくる事が珍しいという事だ。でなければこのような言葉は出ない。  美風の前では表情豊かな悪魔ですよと伝えたら、ラルフはどう思うのだろうか。 「それで美風の質問というのは、俺の事だな」 「う、うん。さっきから陛下って呼ばれてるだろ? それってさ……王様、つまり……魔王……だよな」  アリソンがゆっくりと首肯する。美風は「マジか」と小さく呟いた。  上級悪魔で身分があるなら相当高位だとは思っていた。しかしその頂点だとは誰が想像出来たのか。 (魔王か……ビックリしたけど)  アリソンが魔王だからと言って、美風の中でのアリソンは優しく頼もしい男だということには変わりない。  正直なぜ初めに言ってくれなかったのかと問いたいところだが、アリソンはアリソンなりに美風への遠慮や気遣いがあったのだろう。今更責めても仕方のない話だ。 「ミカ?」  アリソンが不安そうな顔で美風の顔を覗き込んでくる。 (だから魔王のする顔じゃないぞ……って前も似たようなこと思ったよな)  可笑しくて笑う美風に、更にアリソンは不安そうに美風の両腕を掴んで顔を近づけてくる。 「近い、近いって」 「ミカ」 「ほら、ラルフさんがずっと放心状態になってるぞ」  魔王と馴れ合う人間が信じられないのだろう。ずっと驚愕の表情でラルフは固まっている。 「ラルフ、なんだその腑抜けた面は。シャキッとしろ」 「はっ! 申し訳ございません」  王からの叱責にラルフは瞬時に背筋を正し、表情を引き締めて腰を折った。  美風が余計なことを言ってしまったばかりに、ラルフが怒られるような事になり、美風は内心でラルフにひたすらに謝った。 「と、とにかく外も何だし、オレの部屋へ戻ろう。ラルフさん凄く狭い部屋だけど、我慢してもらえると嬉しいです」 「とんでもございません。ミカ様のお部屋に、(わたくし)も御一緒に伺っても宜しいのでしょうか……」 「もちろんですよ! ただ狭いからね……ビックリすると思うよ」  ラルフはアリソンに伺いを立てると、アリソンは鷹揚に頷く。 「ミカが構わないと言っている。ミカの言葉は我の言葉だと思えばいい」 「かしこまりました。ミカ様、お邪魔致します」 「は、はい」  ラルフは美風にまで丁寧に腰を折る。酷く居た堪れない。自分は王族でも何でもない。種族だって違う。  ラルフの主はアリソンなのに、当のアリソンまでが自分の言葉だと思えと言う。美風はアリソンの腕をトントンと叩いて呼んだ。アリソンが何だと美風へと僅かに顔を寄せた。

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