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第52話

「あのさ、オレは王族でも何でもないただの一般人なんだから、ラルフさんにアリソンの言葉だと思えばいいって言うのはどうかと思う。オレだって戸惑うし、ラルフさんに至ってはそれ以上だと思うからさ」  一応アリソンには耳打ちで言っているが、一歩下がってついて来るラルフには恐らく聞こえているだろう。 「ミカはいずれ俺の伴侶となるのだから問題ない。それに俺が大切にしているものが物であろうと、人であろうと、臣下なるものは王と同等に大切に扱わなければならない。ミカが戸惑うに関してはすまないが、それは慣れてもらうしかないな」 (わぁー……さすが王様らしい考えだな。伴侶となるのもアリソンの中ではやっぱり決定事項か……)  伴侶になるに関しては乗り越えなきゃならない事が沢山ある。覚悟もいる。さっきアリソンへの気持ちに気付いたばかりの美風には、直ぐにはイエスとは言えない。  救いだったことは、アリソンが『いずれ』と言ったことだった。美風の気持ちを(おもんぱか)った言葉。強引ではないアリソンに、美風はまた一弾と気持ちが増した気がした。 「陛下の仰る通りでございます。陛下の大切なお方は我々にとっても大切なお方なのです」 「そ、そうでございますか……」 「はい」  ラルフは美しい顔でにっこりと微笑む。その内面で〝ふざけんな〟と煮え滾る怒りがあれば、確実に凹むなと美風はゾクリと背筋を凍らせた。 「ミカ、冷えたのか?」  心配そうにアリソンが背中を甲斐甲斐しく撫でてくる。美風はアリソンの思い違いに乗じて、ちょっと冷えたかもと、蒸し蒸しする公園を足早に出たのだった。  狭い部屋に男が三人、ローテブルを囲む。しかもアリソンは美風の隣を陣取ってきて余計に狭い。何よりも二人は規格外の大きさだ。  何だか狭すぎて申し訳なくなってくる。だがラルフはさすがと言うべきか、窮屈さを微塵も顔に出さない。終始美しい顔はアリソンを見守るように慈愛に満ちている。一瞬天使かと見紛う程だ。 「しかしあの陛下が……。心から大切に想われる方に出逢われたのですね。お二人を見ていて、とても微笑ましいです」 「あの陛下とは失礼だな」  アリソンはそう言いながらも、悪い気はしていない様子で機嫌がいい。 「いいえ、陛下はいつになったら落ち着かれるのかと心配しておりました。たくさんのお相手がいらっしゃっても、どの方にも御心を寄せられる事はありませんでしたし。いつも何処か冷めていらした。それがミカ様の前ですと、とても上機嫌でいらっしゃる。陛下が御生まれになった時からお側についていた身としては、とても喜ばしいことです」  ということは、ラルフはアリソンよりも年上なのかと美風はこっそりと二人を見比べる。人間とは違い老いる事がない魔族は、見た目では全く年齢差は分からない。ラルフは落ち着いた雰囲気があるから、お兄さんに見えないこともないが。  そしてラルフが心からアリソンを慕い、敬っていることが美風にもよく伝わった。

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