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第53話
暫くは和やかな談笑を混じえていたが、アリソンが今回の事を話し始めた事で、場がピリッと締まった。
魔王が知らぬ間に人間界へと飛ばされ、そして魔力までほぼ奪われてしまった上に、髪も目も黒く変化させられていた。魔界では突然の王の失踪に、一時期大混乱に陥ったようだ。
しかしラルフは何者かの声を聞き、魔王は人間界へと送られたことを知った。
「直ぐに御迎えに参りたかったのですが……」
「〝アレ〟に阻まれたのであろう?」
「左様でございます」
ラルフが悔しそうに、初めて美しい顔を歪めた。
「アレって言うのは何?」
美風は隣のアリソンに問う。
「神だ」
アリソンが忌々しそうに吐き捨てる横で、美風はついポカンと口を開けてしまう。なぜなら〝神〟と聞こえたからだ。
「え……神って、あの神様?」
美風が天井に指を差して言うと、アリソンは頷く。
「そうだ。あの神様だ」
アリソンは美風に合わせて神に様をつけている。その顔は……やはり煩わしそうだ。
どうやら今回の件は理由は不明だが、神がアリソンを人間界へと送り、そしてラルフにその旨を伝えた。魔力まで奪って神は一体何がしたいのか。神自らが魔王退治か……。
「でも、いくら神様だからって悪魔の力を奪えたり、干渉したり出来るのか?」
「あぁ……それはな……。まぁ、簡潔に言うとだ、気の遠くなるはるか昔に神は先ず天使を創った。そして次に人間を創ったのだ。ここまでは何となく知ってる人間も多いのではないか?」
アリソンの問に美風は頷いた。何となく何処かで聞いた程度ではあるが知ってはいた。アダムとイブなんかは有名な話だ。
「そしていつしか神に最も愛されていた天使が、神の寵愛が人間アダムへと移ったことに腹を立て、軍を率い反乱を起こした。この辺りは諸説があるが……。しかしとにかく天使は神の軍に負けて墜落し、魔界へと幽閉された。のちに堕天使はサタンとして魔界に君臨したのだ。一緒に墜落した天使らは悪魔となり、サタンに仕えた……」
「という事は、悪魔も神が作った事と変わらないってことなのか。だから神は魔界の干渉も出来る」
その時、美風は軽い頭痛を覚えた。何かとても大切な事を忘れているような感覚がした。だが頭に靄がかかり、一ミリ先も見えない状態だ。でも無闇に突っ込むと大怪我をしてしまう。先に触れるのは怖いと美風はそれを振り払ってしまった。
アリソンとラルフがとても心配そうに美風を見つめている。そこで不意に二人から何かを探るような気配を感じた。
(なんだ……?)
美風が怪訝に思っていると、アリソンがふと表情を緩め、美風の頬に触れてきた。
「大丈夫か?」
「え? あ……あぁ、うん大丈夫」
美風の返事にアリソンがホッとしたように笑みを浮かべた。魅惑的な笑みに美風の心が踊る傍ら、何か胸がざわざわと嫌なものも感じている。これはきっと、アリソンが魔界へと帰ってしまうという危惧からくるものかもしれない。何かを隠そうとしたことへの不安ではない。そう思うようにした。そうでないと、とんでもない言い掛かりをつけてしまう恐れがあったからだ。
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