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第54話
「……あのさ、アリソンは神様から魔力を返してもらわないと帰れないんだよな?」
美風は自分の気持ちを誤魔化しながらそう問う。
「そうだな、ラルフと帰ることは出来ても、魔力が回復していない状態で帰ると恐らく……」
ここでアリソンはラルフを見遣った。ラルフは悲しげに長い睫毛を伏せて首肯する。
「はい、今の陛下が魔界へ帰ることはとても危険です。まさか魔力まで奪われているなどと思っておりませんで、意気込んでお迎えに参りましたが……」
危険というのは何だ? 美風は一人青くなる。
「どういう事だよ。なんで危険なんだ?」
二人は一瞬黙ってしまう。どうするか逡巡しているようだ。
確かに人間ごときが踏み入る事ではないのかもしれない。知ったところで何か出来る力もない。でも美風を将来伴侶と考えているのならば、教えてほしいことだった。
「アリソン!」
「ミカ様、私から御説明させて頂きます」
恐縮したようにラルフが頭を下げる。美風は慌てて居住まいを正した。
「す、すみません……。よろしくお願いします」
臣下の前で王に大きな声を上げるなど、してはいけない事だったと美風は反省した。自分が慕い、敬う相手が怒鳴られるのはいい気分はしない。
それが伝わったのか、ラルフは柔らかい表情で美風へと軽く頷いた。
「陛下が人間界へと送られたのは、魔界では数千年眠りに就いていたサタン……ルシファーが目覚める事に関係がございました。ルシファーというのは、先程陛下がお話になった堕天使の事でございます。そのルシファーの目覚めが近いため、アリソン王を一時的に人間界で預かると神から告げられたのです。私共、陛下も含め、ルシファーが目覚めるなど寝耳に水の状態でとても驚きました。陛下へは先程、私に魔力をお使いになられた時に、情報をお渡ししましたが、これ以上の明確な理由は存じません」
「ルシファー……?」
そう呟いた瞬間、突然美風の頭に激痛が走った。
「っ……」
「ミカ!?」
「ミカ様!」
二人の声が重なる中、アリソンは直ぐに美風の肩を抱き込んだ。
「ミカ! どうした!?」
「く……いた……い」
頭の中で大きな鐘が鳴り響いている。グゥアーングゥアーンと反響し、頭が潰されそうだ。やめてくれと叫んでも音が消えない。
「ミカ、頭が痛いのか!?」
「陛下っ、とりあえずミカ様を横に」
「あ……く……」
「ミカ──」
やがて美風の耳には、心配する二人の声が入らなくなっていった。
〝──が目覚める〟
あの時に聞いた声が突然頭に入り込んでくる。どうしても聞き取れなかった言葉が、鐘がなる中はっきりと聞こえた。
〝ルシファーが目覚める〟と。
そこで美風の意識は途絶えてしまった──。
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