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第59話

「ミカ、ミカを愛してるこの気持ちは確かなものだ。神に謀られたとはいえ、気持ちまでは制御できない。俺の全身全霊はミカのためにある」  美風の想いが伝わった瞬間であった。そう、いくら神でも心は変えられない。変えられたらルシファーも裏切ることはなかったはずだから。  お互いの愛は強固だ。アリソンは神に見せつけるように美風へと熱烈なキスをした。  昨夜、伴侶となるには覚悟がいるなどと思っていたが、覚悟など必要ない。アリソンが傍にいればなんだって出来る。乗り越えられる。  ポジティブに考えると神にも認められた仲なのだから。 「それで、具体的にはどうすればいいのだ。魔力もいい加減に返せ」  キスの余韻でクラクラする美風とは対照に、アリソンは濡れた唇を妖艶に舐めてから神に対峙する。 「そうであったな」  神は愉快そうに笑うと、アリソンへと右手を翳した。そこからボーリングボールほどの青白い光の玉が現れた。バチバチと強力な静電気のようなものが放出されている。  美風がゴクリと唾を飲んだとき、玉はアリソンの胸部へと吸い寄せられていった。その刹那。 「わっ!!」  眩しさと突風に煽られるなか、ラルフが瞬時に美風を護るために覆いかぶさってきた。凄まじい風で窓ガラスが一気に粉砕され、飛び散る。  やがて風は収まり、静かな部屋へと戻っていく。 「ミカ様、大丈夫ですか?」 「大丈夫。ありがとう、ラルフさん」  ラルフは当然だと言わんばかりに微笑んで頷く。美風は狭い部屋で羽を広げてガラスの破片を落とした。 「ミカ、すまない」  本来の姿となった美しい魔王が、すぐさま美風の傍へと寄る。流石というべきか、完全な魔力が戻ったアリソンからは凄まじい程の膨大なエネルギーを感じた。  ラルフがそっと王に場所を譲る姿を横目に、美風は大きく首を横に振った。 「大丈夫だって! ビックリしたけど、ラルフさんが庇ってくれたし。アリソンの魔力が戻って本当に良かった。これで魔力が減るとか心配しなくてよくなったもんな。ただガラスやばくないか? 音で絶対周辺の人達ビックリしてるよな」 「心配せずともよい」  神がそう口にすると、アリソンが張り合うように散らばったガラスの破片を一瞬で消し去り、ガラスを元通りに戻した。 「凄い! アリソン、ありがとう」 「ミカのためなら当然だ」  どこのバカップルだと言うほどに、いちいち二人は抱き合う。ラルフはそんな二人を見て目を潤ませている。チラリと美風が神に視線を向けると、神は優しく唇の端を上げた。  きっと神は、音に気づいた周辺の人間の記憶を消してくれただろう。大騒ぎにならずに済むと、美風はそっと胸を撫で下ろした。  それから今後すべき事を神から聞いた美風は、暫く黙ってしまうことになった。  簡単のようでいて、決してそうとは言えない。生半可な気持ちではルシファーは倒せない。封印では駄目なのだ。完全に滅する。それをアリソンと二人で成し遂げなければならない。再び目覚めたルシファーに世界を滅ぼされないためにも。  神が直接手出しが出来ないため、ミカエルに託された最重要任務だった。

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