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第65話

「天主様、恋占いとかしたのかな?」 「だったら面白いな。しかも完璧に当ててくるとは流石と言うべきか」  アリソンとミカエルは二人で笑い合った。  恋占いなどはジョークだが、おそらく神には二人の相性云々を見て、使えると悟ったはずだ。  ルシファーが目覚める時期に、伝説の魔王と称されるアリソンの存在があり、そして全天使の長でもあるミカエルの存在がある。これは偶然と呼べるのか……。それもこれも神のみぞ知るだ。  暫くして部屋に神が降りてきた。 「ミカエル、魔王アリソン、準備は良いか?」 「はい」  ミカエルが神の前で片膝をついて跪く横で、アリソンは立ったままだ。魔王は神を敬う事がないため、敬意を表す必要はないからだ。 「ミカエル」 「はい」  名を呼ばれて顔を上げると、ミカエルは瞠目した。初めて見せた神の哀愁を帯びた表情。ミカエルの胸がチクリと痛む。  ミカエルとアリソンは今から魔界へ向かう。そうは言っても、天使が魔界に易々と足を踏み入れる事は出来ない。否応なしに堕天使となってしまう──一度堕天してしまうと二度と天使には戻れない──からだ。しかしルシファーを倒すには〝魔王〟と〝天使〟でなければならない。そのため神は、十日間だけ魔界でも天使でいられるよう、ミカエルの身体に防御のためのシールドを張るという。  言ってしまえば十日間という短い期間内で、ルシファーを倒さなければならないのだ。  ミカエルが天使でなくなった時点で、神剣の効力は無くなってしまう。無謀な闘いだ。だがミカエルとアリソンの気持ちは一つだ。必ずルシファーを滅すると。 「シールドの効力は十日間。その後のことはミカエルの判断に委ねる」 「はい、承知致しました」  ミカエルは一拍置いて、顔をゆっくりと上げた。宝石のように美しい金の瞳が、真っ直ぐにミカエルを見返す。暫く見つめ合う時間は、これまでの長すぎた人生が思い起こされた。  天使には※ヒエラルキーがあり、熾天使(してんし)から始まり智天使(ちてんし)座天使(ざてんし)主天使(しゅてんし)力天使(りきてんし)能天使(のうてんし)権天使(けんてんし)大天使(だいてんし)、天使といった九階級ある。  ミカエルは八階級の大天使(アークエンジェル)という低い地位にいながらも、階級に囚われない特別な天使であった。  全天使からの憧れや信望も厚く、天使長を務め、神の傍に仕える事を許されていた。謂わば熾天使(セラフィム)と同等の存在だった。かつてルシファーが就いていた地位だ。  そう、ミカエルの存在は天界ではとてつもなく大きいということだ。 「天主様……私はアリソンと運命を共に致します」  神にはミカエルの答えなど、疾うに分かっていただろう。そうなっても仕方がないと、分かっていてアリソンと出逢わせたのだから。しかし神はここでも哀感を漂わせる。  神が一天使のために悲しんでくれているのだと思うと、途端にミカエルの胸が締め付けられるような寂しさに襲われた。 「天主様……」  ミカエルの澄んだ(すみれ)色の目から大量の涙が溢れてきた。   ※キリスト教の天使の階級参照

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