65 / 123
第65話
「天主様、恋占いとかしたのかな?」
「だったら面白いな。しかも完璧に当ててくるとは流石と言うべきか」
アリソンとミカエルは二人で笑い合った。
恋占いなどはジョークだが、おそらく神には二人の相性云々を見て、使えると悟ったはずだ。
ルシファーが目覚める時期に、伝説の魔王と称されるアリソンの存在があり、そして全天使の長でもあるミカエルの存在がある。これは偶然と呼べるのか……。それもこれも神のみぞ知るだ。
暫くして部屋に神が降りてきた。
「ミカエル、魔王アリソン、準備は良いか?」
「はい」
ミカエルが神の前で片膝をついて跪く横で、アリソンは立ったままだ。魔王は神を敬う事がないため、敬意を表す必要はないからだ。
「ミカエル」
「はい」
名を呼ばれて顔を上げると、ミカエルは瞠目した。初めて見せた神の哀愁を帯びた表情。ミカエルの胸がチクリと痛む。
ミカエルとアリソンは今から魔界へ向かう。そうは言っても、天使が魔界に易々と足を踏み入れる事は出来ない。否応なしに堕天使となってしまう──一度堕天してしまうと二度と天使には戻れない──からだ。しかしルシファーを倒すには〝魔王〟と〝天使〟でなければならない。そのため神は、十日間だけ魔界でも天使でいられるよう、ミカエルの身体に防御のためのシールドを張るという。
言ってしまえば十日間という短い期間内で、ルシファーを倒さなければならないのだ。
ミカエルが天使でなくなった時点で、神剣の効力は無くなってしまう。無謀な闘いだ。だがミカエルとアリソンの気持ちは一つだ。必ずルシファーを滅すると。
「シールドの効力は十日間。その後のことはミカエルの判断に委ねる」
「はい、承知致しました」
ミカエルは一拍置いて、顔をゆっくりと上げた。宝石のように美しい金の瞳が、真っ直ぐにミカエルを見返す。暫く見つめ合う時間は、これまでの長すぎた人生が思い起こされた。
天使には※ヒエラルキーがあり、熾天使 から始まり智天使 、座天使 、主天使 、力天使 、能天使 、権天使 、大天使 、天使といった九階級ある。
ミカエルは八階級の大天使 という低い地位にいながらも、階級に囚われない特別な天使であった。
全天使からの憧れや信望も厚く、天使長を務め、神の傍に仕える事を許されていた。謂わば熾天使 と同等の存在だった。かつてルシファーが就いていた地位だ。
そう、ミカエルの存在は天界ではとてつもなく大きいということだ。
「天主様……私はアリソンと運命を共に致します」
神にはミカエルの答えなど、疾うに分かっていただろう。そうなっても仕方がないと、分かっていてアリソンと出逢わせたのだから。しかし神はここでも哀感を漂わせる。
神が一天使のために悲しんでくれているのだと思うと、途端にミカエルの胸が締め付けられるような寂しさに襲われた。
「天主様……」
ミカエルの澄んだ菫 色の目から大量の涙が溢れてきた。
※キリスト教の天使の階級参照
ともだちにシェアしよう!