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第67話

「そうだ。しっかり掴まっておけ」 「うん……ん?」  アリソンの顔を見上げたミカエルの目に、嬉しそうな顔をしたアリソンが映る。 「なぁ、本当に──」 「いくぞ、ミカ」 「え!?」  アリソンから放出されるエネルギー。あっという間に二人を青い光が包む。 「目は絶対に開けるな。舌を噛まないようしっかり歯を食いしばれ」  ミカエルはアリソンの首筋にしがみつく勢いで掴まりつつ、必死に頷く。 (そういう事はもっと早く言えよなー!) 「……っ!!」  急激なパワーが直ぐに押し寄せてきた。四肢が引き千切られそうな程に、烈々たる力に引っ張られる。  そして本当に人間界から去るのだと実感した。八年と二ヶ月弱。人間として暮らせたことは心から幸せだったと言える。 ──ありがとう人間界。そして翔馬、楽しい思い出をたくさんありがとう……。  凄まじい力に飲まれる中、人間界に別れを告げつつ、ミカエルは内心でアリソンに謝罪もしていた。お姫様抱っこだろうが何であろうが、しっかりとミカエルを離さないでいてくれている事に深く感謝もした。 (ここでアリソンと引き離されたら、マジでヤバいやつだ。ごめん、ありがとうアリソンっ!!)  異空間の移動が、これ程までに苛烈を極めるとは思ってもみなかった。よくアリソンは平気だなと感心したとき、不意に身体の負荷がなくなり、次にふわりとした浮遊感に包まれた。 「着いたぞ。頑張ったなミカ」 「ふぁ……」  〝着いたのか〟と口にしたかったが、歯を食いしばっていた事と、突然の開放感に口がもたついて不明瞭な言葉がもれてしまった。  アリソンが眉を下げて笑いながら、おでこが全開になったミカエルの前髪を甲斐甲斐しく整える。 「つ、着いたんだな」  咳払いをして言うミカエルを、尚も楽しそうな目でアリソンは見つめてくる。ミカエルが少し睨むと、アリソンは大袈裟な仕草で肩を竦めた。そしてそっとミカエルを魔界の地へと下ろす。 「ここが……魔界」 「そうだ」  ミカエルはもっと禍々しくて陰鬱な世界を想像していた。神のシールドによって護られていることもあるが、肌で感じる云々ではなくて、暗いイメージを持っていた。しかし頭上を見上げれば人間界とよく似た綺麗な青空が広がっている。  天界は例えるならば霧の中にいるような世界だった。地上という物が存在しないため、建造物は浮いている。そんな世界だった。 「……人間界と似てるんだな」 「あぁ、場所にもよるが昼も夜もあり、天候も変わる。天界はそうじゃないのか」 「うん、昼も夜もないし、天候も変わることはない。でも建造物のあるエリアに生えている作物や花はちゃんと育ってた」  二人が立つ場所は森のような場所。周りを見渡しても木しか見えない。木に詳しいわけじゃないが、天界や人間界でも見たような木々が生えている。特に奇妙な木は見当たらない。ミカエルが周囲に視線を向けていると、ある物が目に入り、驚きながら指を差した。 「あれ!」 「あぁ、あれがこれから俺たちが暮らす真魔城(しんまじょう)だ」 「しんま城……」  その存在感と言ったら。まだまだ距離はあるが、木々の合間から見える城の巨大さに圧倒される。やはり魔王が住む城だけあって、威厳に満ちた強大なパワーなるものを感じた。 「でも結構距離があるよな。ここから歩いてだと軽く一時間はかかる? オレは飛べるけど、アリソンも魔界なら飛べるのか? 何なら抱えるけど?」  ミカエルは羽を広げて浮上し、ニヤリと笑いながらアリソンに訊ねた。

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