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第68話
「俺も飛べるぞ」
ミカエルが悠々と空を旋回していると、アリソンがふわりとミカエルの元へと飛んできた。驚くミカエルの腰にアリソンが両腕を回してくる。
大きな羽を羽ばたかせるミカエルを、アリソンは目を細めて見つめる。
「だが、ここから飛んで行くのはスマートじゃない。ここに飛んだのは、いきなり城の中では都合が悪いからだ」
「都合が悪い?」
二人は地面に降り立ち、ミカエルはアリソンを見上げた。
白に近いホワイトシルバーの髪が、陽光を浴びてキラキラと耀いている。天使は一体どちらなんだと問いたくなる程に美しい。
「城ではミカに挨拶をするために何名か集まっているだろう。その中に突然飛べばミカが戸惑うだろうと思ってな。先ずは一息ついてからだ」
「アリソン……」
(優しい! 男前!)
ここへ着地した瞬間のミカエルといえば、かなりヘタっていた。あんな姿を見られていたら……やっぱり凹んでいただろう。本当に悪魔とは思えない程の気配り。紳士だ。
「とりあえず先に魔界のことや、言語を知ってもらう必要がある。今から俺の魔力をミカに送る」
「魔力?」
天使の身体に魔力を使って大丈夫なのだろうかと、ミカエルは少し不安になる。
「大丈夫だ。ただ情報を流すだけだから、身体に何かしらの影響があるわけじゃない」
「うん、分かった。よろしくお願いします」
以前アリソンがラルフにやっていたように、頭に手を翳すのだろうかと、ミカエルは下を向いた。しかしアリソンの手がミカエルの頬を包んだ。顔を上へと向かせるとアリソンが唇を重ねてくる。
(あれ? 手を翳すんじゃ……って、これは……)
舌を絡め合う間に、あらゆる情報が頭に流れ込んできた。魔界の歴史、言語、どのような種族がいるのか、果てしなく膨大な情報量だ。でもすんなりと頭に入ってくる。不思議な感覚だった。
「どうだ?」
唇を舐められながら問われ、ミカエルは一人ドキドキしながらも頷いた。
「一気に流れ込んできたのに、それを全て理解できた。まるでもう昔から魔界にいたみたいに」
やや興奮しながら言うミカエルに、アリソンは鷹揚に頷く。
「いまミカが話してる言語も、もう魔界の言葉だ」
「え、そうなんだ。すごっ」
魔界の言葉を話している感覚はない。だからと言って日本語を話している感覚もない。脳が勝手に理解して言葉にしてくれているのだ。
アリソンの魔力のお陰で、魔界で慌てる羽目にならずに良かったと、ミカエルは安堵の息を吐いた。
「というか、ラルフさんの時は……キスしないで手を翳してたのに」
「ラルフとキス……おぞましい想像をさせないでくれ」
アリソンは本当に心底に嫌そうな顔をする。少しラルフが可哀想だ。
「誰も想像しろなんて言ってないだろ」
「ミカは嫌だったのか? 愛する者にキスをするのは当然だからその方法を取ったまでだが」
当然嫌なわけがない。むしろ愛してるからこその方法と言われれば嬉しいに決まっていた。
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