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第75話
「わぁ……凄い。広いし、やっぱ豪華だな」
ミカエルは部屋へ一歩入ってから、素晴らしさに圧倒されて動けなくなる。
黒を基調とした内装は、白と金の差し色を上手く利用した装飾や彫刻が成され、暗くなることはなく絶妙な調和になっている。実に豪華絢爛そのものだった。
広さは謁見の間ほどあり、ベッドが中央部に鎮座している。その大きさと言ったら。初めて見るサイズだ。起きてベッドから降りるのも一苦労しそうなほど。天蓋が真っ白な事もあり、妙にそこだけ浮いて見えた。要するに非常に官能的だということだ。
ミカエルが不自然にならないように視線を外した時、アリソンにそっと右手を握られた。
「もう少し中へ」
「う、うん」
アリソンに軽く手を引かれ、アンティークな暖炉を象った暖房器具の前まで連れられた。その上には巨大な額縁に収められた絵が飾られている。
アリソンの肖像画だった。正装した姿のアリソンは、細やかなレリーフに縁取られた漆黒の立派な王冠を被り、漆黒の毛皮のマントを羽織っている。白銀の髪と青の目がより印象的に映り、強烈なほどの濃艷さに溢れている。本当に見惚れる美しさだ。
「そんな絵より、本物を見てくれ」
アリソンの美しい声がそう告げたとき、ミカエルは一驚する。
アリソンがミカエルの前で徐ろに片膝をつき、跪いたからだ。
「え……アリソン?」
驚くミカエルを余所に、アリソンはミカエルの左手を、まるで壊れ物に触れるかのようにそっと取った。
「ミカエル」
「は、はい」
初めて天使名を呼ばれ、ミカエルの心臓が激しく音を立て始めた。
「俺はこの命がある限り、生涯ミカエルを愛し抜く」
「はい……」
カタカタと小刻みに震え始めたミカエルの左手を、アリソンの大きな両手がしっかりと包み込む。手だけでなく、身体も震えてくる。
これ程までに緊張し、胸が高鳴る瞬間など、ミカエルには一生経験出来ないものだと思っていた。神のために生きてきた自分が、まさか恋心というものが芽生えるとも思っていなかった。
それも悪魔で、しかもその頂点である王と恋に落ちるなど、こんな人生想像すらした事がなかった。
ミカエルはあまりの嬉しさにどうすればいいのか分からず、ただただ溢れる涙を右手で拭うしか出来なかった。
「お互いの人生が終えるその時まで、傍にいて欲しい。改めてもう一度言う。どうか俺の伴侶になってくれ」
アリソンのブルーの瞳が、ミカエルをまっすぐに映している。一切ブレないその目に吸い込まれそうになりながら、ミカエルは涙をもう一度拭ってから大きく頷いた。
「はい。オレをアリソンの伴侶にしてください」
ミカエルの心臓が限界を超えそうな程に大きな音を立てる中、ミカエルははっきりとアリソンへと伝えた。
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