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第76話

 ミカエルの返事にアリソンの眉がピクリと動き、やがて眉尻が大きく下がっていった。 「ミカ……ありがとう」  感極まったアリソンの声に、ミカエルは大きく首を振りながらも、目から再び大きな滴がこぼれ落ちていった。  人間界で初めて会った時、アリソンに伴侶になれと言われた。しかも上から目線で傲慢とも言える態度で。あの時とは同じ言葉でも、重みが全く違う。胸に響く度合いだって比べるまでもない。  当時は男と恋愛する気など全くなかったし、しかも人外とだなんて問題外だった。でもいつしかアリソンの紳士的で、優しいという悪魔らしからぬ面に、少しずつ見る目が変わっていった。気を許す事も多くなり、そして徐々に惹かれていった……。 「こちらこそ、ありがとう」 「あぁ」  アリソンはミカエルの手の甲にキスをしてから、再びミカエルへと顔を上げた。 「ミカ、王妃となるものに、王から贈るものがある」 「贈るもの?」 「あぁ。これを身に着けると、否応なしに王妃となったことが王都全域に知れ渡る」  そう言ったアリソンの手のひらに不思議なことが起こった。まるでマジックのように、手のひらサイズの装身具が光り輝きながら、現れたのだ。  ミカエルは目をぱちくりとさせ、装身具を凝視した。一体アリソンの、魔王の身体はどうなっているのか。身体から金属製の物が出てくるなど、天界でもいなかったため、ミカエルはとても驚いた。 「……そ、それってバングルみたいなもの?」 「そうだ。これを手首につけて欲しい。俺の血肉で生成された物だ。歴代魔王はこうして生涯愛する者に贈ってきた。慣例のようなものだな」 「そうなんだ……。それにしても血肉……凄い。触っても?」 「もちろんだ」  人間界で言えば結婚指輪のようなものだろうかと、ミカエルはそっとアリソンの手のひらからバングルを持った。  シルバーのバングルは幅が一センチ程で唐草模様のような物が彫られており、その中央部にはアリソンの目の色と同じスカイブルーの石が埋め込まれている。かっこいいの一言だった。  ミカエルはもう一度アリソンの手のひらへとバングルを戻し、アリソンへと左腕を突き出した。 「はめて欲しい」 「もちろん、そのつもりだ」  アリソンは嬉しそうに顔を綻ばせ、バングルをミカエルの手首へとはめた。 「ありがとう。大事にする」  その時、俄に城内と外でざわめきに似た空気が動いた。 「え……なに?」  地震のように壁が振動し、ミカエルはルシファーが攻めてきたのかと身構えた。 「ミカ、大丈夫だ。言っただろ? それを着けたら王都全域に知れ渡ると」 「知れわた……えーー!?」  ミカエルは驚愕し過ぎて、思わず大きな声を出してしまった。

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