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第77話

 王都は魔王が歴代護ってきた都市。王が認めた者だけが住める都だ。その王が自身の血肉で作った装身具を、王妃となる者が身に着けると、王都全域に伝わるようにと魔力が込められている。一々お触れを出す必要がないようにという事らしい。 「皆、俺たちのことを祝福してくれている。お披露目は……ルシファーを倒してからになるが」  アリソンは少し切なげな微笑を浮かべた。幸せで綻んでいたミカエルの顔も直ぐに引き締まる。 「そうだな。先ずはルシファーを片付けてからだ」  ミカエルはふと、神と最後の別れの時に脳内へと語りかけられた言葉を思い出す。 『疑いを持たぬよう』  これがどういう意味を持つのかが分からなかった。神に問いかける前にシャットアウトされてしまったため、ずっと引っかかっている。アリソンには何も告げていないようだから、これはきっとミカエルだけの問題なのだろうが。  神が答えを明確に教えなかったのは、きっと意味がある。ミカエル自身がそれに気づかないといけないのだ。 (でも疑いって、何を疑うんだ? ルシファーのことか?) 「ミカ?」 「あ……あぁ、ごめん、ちょっと考え事してた」  ミカエルは何食わぬ顔で、スっと思考を振り払った。アリソンの青い目がじっとミカエルを探るが、どうせ答える気はないだろうと悟ったのか、苦笑した。 「俺は今から仕事があるんだが、恐らく遅くなるから、先に寝ておいてくれ。悪いな……」 「……分かった」  王の仕事は大変だろう。魔界を空けていたこともあり、仕事は溜まっていそうだ。  ここ最近ではずっとアリソンの傍にいたため、少し離れるだけで心許ない想いがある。でも邪魔だけはしてはならないと、ミカエルは寂しさを我慢した。 「そう言えば、腹は減ってないか?」  アリソンにそう問われて、朝から何も食べていないことを思い出した。でも不思議とお腹は全く空いていない。ミカエルはお腹をさすりながら首を振った。 「大丈夫。減ってない」 「そうか、もし何か食べたくなったら執務室へおいで」  俺がいるからとそう言って、アリソンがキスをする。執務室の場所を教えてくれたようだ。 「分かった、ありがとう。腹減ったら行くよ。仕事頑張れ」 「ありがとう」  アリソンは上機嫌で部屋から出て行った。大きな扉が閉まってしまうと、ミカエルの羽も萎んでしまう気分だった。 「寂しいのはオレだけか……」  こんなに女々しくて寂しがり屋だったのかと自分自身が信じられない。  天界に戻ることなく魔界へ来たが、天界への未練は全くない。神に会えなくなるのは寂しい思いがあるが、アリソンと離れてしまう方が、突然この世に独りぼっちにさせられたような気分になり、耐えられない。 「今こんな風になってどうすんだよ。まだルシファーだって何処にいるのか分かんねぇのに」  ミカエルは自分を叱った。  ルシファーを完全に滅する事が出来なければ、また魔王アリソンの魔剣によって眠らせなければならない。眠らせるという事は再び目を覚ますということだ。何千年後の魔界には、ミカエルたちも生きてはいない。これから魔界を背負っていく魔族に、悲劇を背負わせたくない。だから今がまさに千載一遇の時。  ミカエルは腰に差した神剣のグリップを握った。

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