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第78話
「ルシファー……何処にいる」
ミカエルの菫色の目に闘志を燃やした時、頭の中へミカエルの名を呼ぶ者がいることに気がついた。
《ミカさま……ミカさま》
それは声と呼ぶには神と同様に不思議なものだった。頭の中で音が言葉に変換されたような感覚だ。
声の主が何なのか分からず、ミカエルは広い部屋をうろうろとしてしまう。
《ミカさま、外です》
「外?」
外と言っても、この部屋が何階に位置するのかが分からない。とりあえずミカエルは窓辺に近づくと、天井まで届きそうな程の大きな窓のカーテンを少し開けて、外を窺った。
「わ……結構高い」
地上から約四、五十メートル程か。下を見れば、庭園らしき敷地に生える木々の天辺がよく見える。
《こちらです》
そう言われて、ミカエルは何となく顔を正面にした。
「ひっ!?」
驚き過ぎたミカエルは、後ろへと僅かにたたらを踏んだ。ミカエルが目にしているのは、とてつもなく巨大な生物。それが浮遊しながら、顔をミカエルのいる窓へと近づけてきた。
ミカエルは驚きながらも、まじまじとその生物を凝視する。
外は日がもうすぐ落ちる薄闇の世界。それは全身に漆を塗ったかのように美しい黒で艶めいており、長い胴体を器用にうねらせいる。目は兎のように深みのある真紅。見つめていると、魂まで奪われてしまいそうになるほどに、赤が強烈なインパクトになっている。顔だけでも三メートルほどありそうだ。
「りゅ、龍……」
《左様でございます、ミカさま》
黒龍は僅かに真紅眼を細めた。口から話すのではなく、念を送ってるようだ。
《ミカさま、私はアリソン魔王に仕える〝レオン〟と申します》
「アリソンに仕える……」
使い魔のようなものだろうか。こんなに大きく高尚な存在を従えるなんてと、ミカエルは心底に驚いた。
《ミカさま、ご成婚おめでとうございます。私レオンはとても嬉しゅうございます》
嬉しさをアピールしているのか、黒龍レオンの尾の部分が結構激しめに揺れている。
(顔はやっぱ迫力あるけど、なんか可愛いかも)
「えっと……レオンって呼んでもいいのかな?」
《はい! そう呼んで頂けたら幸福でございます!》
さっきよりも尾がブンブンと振られている。やはり嬉しい表現のようだ。
「ありがとう。じゃあレオン、お祝いの言葉ありがとう。本当に嬉しい。こーんな大きな黒龍と話せるなんてテンション上がるよ」
天界や人間界にも龍は存在した。水龍が主に人間界に存在していたが、ここまで大きな龍はいなかった。色も水龍なら白縹 や、天界にいた龍などな神秘的な黄金や、白龍が主流だった。
黒龍は伝説的な神獣だと思っていたため、ミカエルの高揚感は収まることを知らない。
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