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第79話
《嬉しい等とは勿体なきお言葉でございます。もう少しお話したいのですが、魔王さまに叱られますので、これにて失礼致します》
「そっか……。オレももっと話したかったけど。わざわざお祝い伝えに来てくれて本当にありがとう。またゆっくり話そう」
《はい!》
今度は大きな口を開けて喜びを表現してから、頭を下げる仕草をして、レオンは空高く舞い上がって行った。
「すげぇ……」
窓を大きく開け放ち、ミカエルは外へと羽を広げて飛び出した。このまま追いかけたいが、どうもレオンはアリソンに〝叱られる〟ようなので、ミカエルは少し飛んでから城の中へと戻った。
「それにしても、叱られるって……可愛すぎかよ!」
ミカエルはじたばたと足を踏み鳴らして悶えた。想像したら凄い絵面になるが、あの黒龍が叱られると表現するというのは一体どのようなものなのか、めちゃくちゃ気になるミカエルがいた。
「本当……あんなに凄い黒龍を使役するなんて、伝説の魔王と称されるだけあるってことか」
アリソンの偉大さをひしひしと感じる。
龍は自尊心が高く、誇り高い神獣──魔獣──だ。だから他者に従う事はほとんど無い。しかもあれほどの巨大な龍だ。魔王が自分よりも弱いと判断されれば、容赦なく命を奪われるだろう。
「なんか興奮したら腹減ったな」
アリソンからは執務室に来いと言われたが、仕事中だと思うと気軽には行けない。
「コーラ飲みたい」
すっかり食の好みが人間だった頃のものになっている。考えると余計に腹が減る気がして、ミカエルはもう寝てしまおうと思った。
そのとき、何処か遠くで爆発音らしき音が聞こえた。途端に地響きにも襲われる。
「なんだ……?」
遠くだと分かるのに、ここまで伝わる尋常ではない爆発音と地響きに、ミカエルは手に汗を握った。そして感じる気配。
「ミカ!!」
大きな扉が突然乱暴に開き、アリソンが大股で部屋に入ってくる。アリソンの目がミカエルを捉えると、幾分ホッとした顔つきになった。ラルフもアリソンの後ろから安堵の表情を見せた。
「奴がシールドを破壊した。直ぐに向かいたい」
「わ、分かった」
城内にも慌ただしい空気が動いているのが分かる。三人が足早に部屋から出ると、大急ぎでこちらに駆け寄ってくるヘンリーとエイダンの姿があった。
「陛下!」
「エイダン兄上、直ぐに兵を」
「御意!」
エイダンはすぐさま踵を返して、一瞬で姿を消した。動くとなると、とても速い。一分一秒を争う場面では一秒の遅れが命取りとなるからだ。
「ルシファーがついにシールドを破ったのですか?」
ヘンリーが三人と合流すると、再び来た道を足早に歩きながらアリソンに問う。
「あぁ……帰って来た時にミカとシールドの話をしていてな、気になった事もあって、シールドを強化したばかりだったが……」
アリソンは苦虫を噛み潰したような顔で言う。
「強化されたのに、それを破ったのですか?」
ヘンリーは驚愕の表情を浮かべる。ミカエルも同じ気持ちだった。
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