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第80話

 ルシファー……サタンとなってからの力は一体どれ程のものなのか。もしかしてミカエルの身体を一瞬で消し去ることも可能なのか?  天使の身体はどんな傷を負っても、例え心臓を負傷しても死ぬことはない。復活出来る肉体があれば修復してしまう身体だ。しかし肉体も残らない程のパワーをぶつけられた場合、死んでしまう可能性が出来てしまった。 (ヤバいかもな……) 「強化したと言っても、王都はかなりの広範囲だからな。シールドの強度が分散されていることも原因ではありそうだが」 「しかし……それにしても陛下のシールドが破られるなど普通考えられません。一体ルシファーはどれほどのパワーを持っているのか……」  アリソンやヘンリーにとっても、ルシファーは未知の存在だろう。歴史的に語り継がれてきた存在だけに過ぎない。それが突然復活したと聞かされたヘンリーらが、惑うのは仕方ないことだ。  倒せるのは魔王アリソンと、天使ミカエルの二人の力だけなのだから余計に。 「とにかく現場へ向かおう。ヴァンパイアどもが好き勝手に暴れているのを見過ごす事は出来ん」 「はい、もちろんです」  アリソンの手に魔剣が青い光を纏いながら現れた。物も容易に呼び出せるようだ。  ヴァンパイア……これもアリソンからの情報で得たことだが、ヴァンパイア一族はルシファーに(くみ)し、復活する日を待ちわびていたようだ。  人間界にいた頃、ヴァンパイアに対してアリソンが小馬鹿にした物言いをした事があった。その意味が今ならよく分かる。ヴァンパイアも敵だからだ。 「ミカ飛ぶぞ」 「うん」  アリソンがミカの手を握ったとき、頭に電気のようなものが走っていった。  そして背中に冷や汗が流れていく。 「待って……」 「ミカ?」  アリソン、ヘンリー、ラルフが何事かとミカエルを注視する。 「ルシファーの声が聞こえた」  アリソンが反射的に声を上げようとしたところを、ミカエルは手で待つよう静止の合図をすると、三人から背を向けた。 《ミカエルよ、やっと気づいてくれたか。久しぶりだな。ついにお前も魔界へと堕ちてきたか。ならば感動の再会といきたい。今すぐこちらにおいで》  間違いなくルシファーが語りかけてきていた。天使の時と寸分違わず透明感のある声だ。 《……オレの声は聞こえるのか?》 《あぁ、良く聞こえるよ。相変わらず美しい声だ》  途端にミカエルの眉間には深い縦じわが刻まれる。天使時代はルシファーによく褒めてもらっていた声。ルシファーよりも美しい者など天使の中にはいなかったのに、彼はいつでもミカエルを褒めそやした。あの頃は素直に嬉しいと感じていたが、今は嫌悪感しかない。

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