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第81話

 アリソンと繋いだままの手。邪魔をしないようにしながらも、アリソンがミカエルの手の甲をしきりに親指で撫でている。心配で仕方ないといった(てい)だ。それがミカエルの安定剤にもなっていた。 《聞こえてるなら言わせてもらう。お前と会う時は、お前が消える時だ》 《ふふ、怖いことを言う。ただ、今来なければ、罪のない王都の民が消滅してしまうぞ。ミカエルのせいでね》 《そんなことはさせない!》  ミカエルが心中で叫んだとき、再び爆発音が轟いた。一瞬でミカエルの脳内は真っ白になる。そして憤怒で頭の中が燃え上がった。 「ルシファーー!!」  悲鳴と怒声が混じったミカエルの声。逆立つ猫の毛のように羽一枚一枚が膨張する。 「ミカ!」  アリソンがミカエルを抱き込み、落ち着かせようとするが、ミカエルの炎は完全に燃え上がり、鎮火することは出来なかった。 《今のは警告だ。いいかい、ミカエル。魔王は連れてくるんじゃないよ。一人で来ないと、今度こそ尊い民の命が消えてしまうからね。さあ、早くおいで》 「今から行く! だから絶対に手出しするな!」  念を送るのではなく、ミカエルは口に出して叫んだ。それでも伝わったのか《待ってるよ》とルシファーの悠然とした声が聞こえた。 「ミカ、今の──」 「アリソンごめん。今のはオレがルシファーに呼び出されて、応えなかったオレへの警告……。オレが一人で行かないと民の命が危ない。だからアリソンは絶対に来ないで欲しい」 「しかし!」  アリソンが怒ったようにミカエルの腕を掴む。 「アリソン……分かって。今は話がしたいらしい。例え何かされても、オレは……天使の身体はちょっとやそっとじゃ死なないから。それはアイツが一番分かってる。でも魔族の民はそうじゃないだろ?」  キッと眦を上げたミカエルに見据えられたアリソンは、あらゆる感情を制御しようと眉間に縦じわを刻んだ。目を閉じ、ゆっくり息を吐き出すと、アリソンはヘンリーへと目線を移した。 「ヘンリー兄上」 「承知致しております。お任せ下さい」  参りましょうとヘンリーに促され、ミカエルは直ぐにアリソンに背を向けた。  弟のエイダンは王都内ではテレポートが可能なため、素早く兵を集め一瞬で現地に向かっている。兄のヘンリーはテレポートは出来ないが、ミカエル同様に飛ぶ事が可能のようだ。  二人が窓から飛び立つ時、後ろから「気をつけろ」と感情を押し殺したアリソンの声がした。  こんな時に残される方は相当に辛いだろう。アリソンの気持ちを想うと、ミカエルの心は張り裂けそうな程に痛む。だけど民の命が掛かっているとなると、この世界を統べる王としては感情だけで動くことは許されない。

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