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第82話

 ミカエルはアリソンへと振り返り、力強く頷いてからヘンリーと共に飛び立った。  羽を広げて懸命に前へ突き進む。速く飛んでいるつもりでも王都は広い、前へ進んでる実感があまりなくミカエルは内心焦っていた。 《ミカさま》  その時、聞き覚えのある声が頭の中に届いた。 「あれは……陛下の黒龍」  隣に飛ぶヘンリーが驚いたように呟く。  空高くから、黒龍が胴体部をうねらせながらこちらへとやってくる。ミカエルは険しい顔を僅かに綻ばせた。 「レオン!」 《ミカさま、どうか私の背中へ》  疾風の如くミカエルとヘンリーの側へと飛んできたレオンは、ミカエルに乗るよう促してきた。 「ありがとう! 助かるよ。ヘンリーさんも!」  ミカエルらが飛んで行くよりも、レオンに乗せてもらった方が断然速い。ミカエルは有難くレオンの頭部より少し下がった場所に乗った。背中の中央に生えている毛を掴みながら、ミカエルはヘンリーを手招く。それなのに何故かヘンリーは戸惑っている。 「しかし……私は」 「早く乗ってほしいとレオンも言ってます。お願いします!」 「分かりました」  グズグズしている暇はないと、ヘンリーとて百も承知のこと。素早くミカエルの後ろへとヘンリーは飛び乗った。直ぐにレオンが優雅に身をくねらせた。 「いつの間に黒龍とお知り合いに? しかも名を黒龍が教えるとは」 「ついさっきです。レオンがわざわざ挨拶に来てくれまして」 「……そうなんですね」  ヘンリーの驚きはまだ消えないようで、声に僅かな興奮が混ざっている。  普通使役される魔獣は、使役する者のみに従う。それ以外の者に自ら近づく事は疎か、懐くことは絶対に無いという。下手に近づくと、獣の性質によっては本能のままに襲われたり、喰われたりすることもあると言う。  何故かはミカエルにも分からない。だけどアリソンの伴侶だと認めてもらえて、こうして助けてくれるレオンはミカエルにとっては、もう友と言える。現にレオンはアリソンの命令で来たのではなくて、レオンの意思で来てくれた。これほど嬉しい事はない。  さすがに龍の飛ぶ速度は速い。あっという間に攻撃された場所が目視できるようになった。  すっかり日が落ちた王都内でも、ミカエルの夜目が利くこともあり、その空中ではたくさんの人影らしき物が見え、ぶつかり合っている様子が分かった。黒煙がもくもくと立ち上っている。 「あそこですね」  ヘンリーの硬い声が緊張を伝えてくる。ミカエルは頷きながら、気を引き締めた。  更に距離が縮まり、ぶつかり合っている人影が鮮明になった。ヴァンパイアと魔王軍の兵士だ。  ミカエルはヴァンパイアの驚異的なパワーとスピードに、愕然として怯えを感じた。スピードに至っては、目を凝らしていないと見えないほどだ。瞬間移動に近い。パワーは拳を突き出せば、対象の物が粉砕されている。  ヴァンパイアの目が赤く光り、一層脅威に感じた。

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