82 / 123
第82話
ミカエルはアリソンへと振り返り、力強く頷いてからヘンリーと共に飛び立った。
羽を広げて懸命に前へ突き進む。速く飛んでいるつもりでも王都は広い、前へ進んでる実感があまりなくミカエルは内心焦っていた。
《ミカさま》
その時、聞き覚えのある声が頭の中に届いた。
「あれは……陛下の黒龍」
隣に飛ぶヘンリーが驚いたように呟く。
空高くから、黒龍が胴体部をうねらせながらこちらへとやってくる。ミカエルは険しい顔を僅かに綻ばせた。
「レオン!」
《ミカさま、どうか私の背中へ》
疾風の如くミカエルとヘンリーの側へと飛んできたレオンは、ミカエルに乗るよう促してきた。
「ありがとう! 助かるよ。ヘンリーさんも!」
ミカエルらが飛んで行くよりも、レオンに乗せてもらった方が断然速い。ミカエルは有難くレオンの頭部より少し下がった場所に乗った。背中の中央に生えている毛を掴みながら、ミカエルはヘンリーを手招く。それなのに何故かヘンリーは戸惑っている。
「しかし……私は」
「早く乗ってほしいとレオンも言ってます。お願いします!」
「分かりました」
グズグズしている暇はないと、ヘンリーとて百も承知のこと。素早くミカエルの後ろへとヘンリーは飛び乗った。直ぐにレオンが優雅に身をくねらせた。
「いつの間に黒龍とお知り合いに? しかも名を黒龍が教えるとは」
「ついさっきです。レオンがわざわざ挨拶に来てくれまして」
「……そうなんですね」
ヘンリーの驚きはまだ消えないようで、声に僅かな興奮が混ざっている。
普通使役される魔獣は、使役する者のみに従う。それ以外の者に自ら近づく事は疎か、懐くことは絶対に無いという。下手に近づくと、獣の性質によっては本能のままに襲われたり、喰われたりすることもあると言う。
何故かはミカエルにも分からない。だけどアリソンの伴侶だと認めてもらえて、こうして助けてくれるレオンはミカエルにとっては、もう友と言える。現にレオンはアリソンの命令で来たのではなくて、レオンの意思で来てくれた。これほど嬉しい事はない。
さすがに龍の飛ぶ速度は速い。あっという間に攻撃された場所が目視できるようになった。
すっかり日が落ちた王都内でも、ミカエルの夜目が利くこともあり、その空中ではたくさんの人影らしき物が見え、ぶつかり合っている様子が分かった。黒煙がもくもくと立ち上っている。
「あそこですね」
ヘンリーの硬い声が緊張を伝えてくる。ミカエルは頷きながら、気を引き締めた。
更に距離が縮まり、ぶつかり合っている人影が鮮明になった。ヴァンパイアと魔王軍の兵士だ。
ミカエルはヴァンパイアの驚異的なパワーとスピードに、愕然として怯えを感じた。スピードに至っては、目を凝らしていないと見えないほどだ。瞬間移動に近い。パワーは拳を突き出せば、対象の物が粉砕されている。
ヴァンパイアの目が赤く光り、一層脅威に感じた。
ともだちにシェアしよう!