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第83話
しかし怯えている場合ではない。ミカエルはヘンリーの邪魔にならないよう、羽を広げた。
「レオン! ありがとう!」
《はい! ミカさま、お気をつけて》
レオンも加勢したいようだが、黒龍のパワーは膨大過ぎて兵士や民まで巻き込んでしまうという。そのためその力を発揮出来るのは王都外のみだそう。
ミカエルがレオンから飛び立つとヘンリーも続いた。
上空から見下ろす街並みは、コンクリートの打ちっぱなしのような住宅が目立った。人間界のような高層ビルが無く、高さ制限でもあるかのように綺麗に統一されている。
兵士らが細い路地裏を使って、民を誘導している姿が見えた。その間にもヴァンパイアが襲ってくるため、凄惨な状況になっている。ミカエルは怒りで震える両拳を握りしめた。
つい先程には王都の皆がアリソンとミカエルのために祝ってくれていた。それが今は地獄のような目に遭わせてしまっている。申し訳なくて皆に合わせる顔がないが、この悲惨な襲撃をいち早く収めなくてはならない。
「ルシファー何処だ! ヴァンパイア達の攻撃を今すぐとめるんだ!」
三百六十度見渡しながらミカエルは声の限り叫んだ。そして兵士らに加勢しようと下降しようとした時、不意に声が聞こえた。
「ここだ」
ヘンリーが直ぐにミカエルを護るように前に出る。その前方に黒い稲光を纏いながら、ついにルシファーが姿を現した。
「っ……」
天使時代の時と変わらぬ美貌に、絹のように美しい金の髪。変わったと言えば頭から山羊のような大きな角が生えており、背中には真っ黒な羽が六枚あることだ。
「ミカエル……」
ルシファーとミカエルの目が合ったとき、ルシファーが瞠目した。そして突然肩を揺らして笑う。
「なるほど、神の御加護か。随分と神に愛されているようだな」
ルシファーもまさかミカエルが天使の姿でいるとは思っていなかったようで、素直に驚きを見せた。
「悠々と人間界で、人間として暮らすことも許されていたようだしね。余が挨拶代わりに放ったキメラはどうであった? なかなかの傑作であったろう」
「命ある者を弄ぶ真似、反吐が出る。お前は絶対に許さない」
ヘンリーからも、許せない行為だと憤怒のオーラが漂う。
「ミカエル──」
「ルシファー、話がしたいのなら、先ずあのヴァンパイア共を一刻も早く、退散させろ!」
兵士も選りすぐりの精鋭部隊だけあって、善戦している。だが民を護りながらの闘いのために、兵士らには分が悪い。
ミカエルに魔王のような強大な力があれば、一掃出来たのに。
ルシファーは地上を一瞥し、ミカエルをまっすぐに見据えると、徐ろに右手を上げた。するとあれほど沢山いたヴァンパイアらが一瞬で消えてしまった。目的のものを本人が離れた場所にいても、ワープさせる能力は健在のようだった。
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