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第85話

 焦りが一番の禁物だ。ミカエルも軍を率いて悪魔らと闘ったことが多々ある。闘いのノウハウは叩き込まれている。しかし自分の時間に制限があるという事が、どうしても焦りを生んでしまっていた。  ヘンリーらに心配をかけ、懸念されていてはいけない。先程もミカエルに対して、僅かな不信感が生まれたかもしれないと言うのに。  しかし、先程のヘンリーからのミカエルを(おもんぱか)った言葉は、救いにもなっていた。 「すみません、ありがとうございます。ヘンリーさんがいらっしゃって下さらなければ、きっと私は暴走していました」  ヘンリーは微笑を浮かべながら首を振ったあと、次はミカエルをまじまじと見つめてきた。 「しかし……驚きなのは……」  ミカエルは緊張で固まった。何を言われてもしっかり受け止めるつもりで、ミカエルはヘンリーと向き直った。 「ミカ様……一体おいくつで……」 「え……?」  思ってもみなかったヘンリーの科白に、ミカエルは直ぐに答えることが出来なかった。 「あ……いや、これはとんだ失礼を。お許しください」  ヘンリーが顔色を変え、すぐさまミカエルへと腰を折った。 「へ、ヘンリーさん、顔を上げてください。全然失礼でもないですし」  本当はルシファーと双子という事実を、黙っていたミカエルを追及するのではと思った。でもヘンリーの関心はミカエルの年齢。ミカエルは少し肩の力を抜くことが出来た。  そうは言っても、腹の中では様々な疑念があったり、問い質したい気持ちはあるかもしれない。それを我慢させている事が心苦しいが、それを払拭するには、やはりミカエルが行動で示さないとならない。 「私の年齢は、もう千年超えたあたりから数えるのはやめました。本当に気が遠くなるほどに長生きしましたし。化け物ですよね」  自虐的になったわけじゃないが、ついしんみりと苦笑いまで浮かべてしまった。 「私からすれば羨ましいですけどね!」  突然ミカエルらの前にエイダンが現れた。ミカエルが驚く横でヘンリーには予感があったのか、驚くことなく功労を労うように、エイダンの肩を叩いた。 「エイダン、ご苦労だった」 「はい。久しぶりにヴァンパイアらとやり合いましたが、以前より力が増してましたね。ルシファーの影響でしょうか」 「どうだろうな。その影響も無きしにも非ずだが。何れにしてもルシファーの情報が少なすぎる」  ミカエルも長く生きてきたとはいえ、ルシファーが堕天してからの情報はほぼ入ってこなかった。ルシファーの事は禁忌として、触れる事も許されなかった事がある。神を裏切った者を、好き好んで話題に出す者がいなかったということも大いにあるが。

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