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第86話
「私もサタンとなってからのルシファーに関しては何も分かりません。ただ力のままに、魔界を恐怖に陥れていた時代のことは、人間界にいた時に神からお教えを頂きました」
「ミカ様にもちゃんとした情報がないとは……」
ヘンリーは凛々しい眉をギュッと寄せる。口惜しいという空気が辺りを包む。
「ま、報告は先ず陛下にですね。それにミカ様を早く陛下の元へお返ししないと、そろそろ痺れを切らしそうなので」
「そうだな」
エイダンは「そうでしょ~」と愉快そうに笑うと、ミカエルとヘンリーにもっと近寄るようにと手招きをした。
二人が寄ると、エイダンは次にミカエルとヘンリーの肩にそれぞれ手を置いた。
「では、戻りますよ」
三人を赤い光が包んだ瞬間、瞬きをする間に城内へと戻って来ていた。エイダンのテレポートだった。
ミカエルたちが戻って来た場所は謁見の間のようで、アリソンが周囲を落ち着きなくウロウロとしていた。ラルフはそんな主を心配そうに見つめている。そして三人の気配を感じ取ったアリソンが、直ぐにミカエルの姿を捉えた。
「ミカ!」
アリソンが駆け寄り、力強くミカエルをその腕で抱きしめる。とても心配かけていたことが、その腕の強さで伝わった。
「アリソンただいま。心配かけたよな……ほんと、ごめん。待っててくれてありがとう」
「こんな事は二度とごめんだぞ」
「うん……分かってる」
ミカエルはアリソンに一度強く抱きしめ返してから、そっと離れた。アリソンは少し戸惑うが、ミカエルの表情を見るや、見守るようにミカエルの出方を待った。
「アリソン……」
「あぁ」
「オレ、アリソンに黙ってた事がある。ルシファーと双子だってこと……」
見つめる先のブルースカイの目は、変わらずミカエルをまっすぐに映している。ブレたりしない目の奥に、ミカエルはやっぱりアリソンだと、とても嬉しくなった。
「ミカ、俺はミカの気持ちを一番に尊重する。どうしたいのか、決めるのはミカに権利がある。ルシファーを倒せないと言うなら、俺が眠りに就かせよう。でもミカはそうじゃないだろ?」
「うん、違う。オレは……オレは二人で倒したい。絶対にこの手で倒す」
ミカエルは右の拳を強く握った。
アリソンは何があってもミカエルを信じてくれている。だけどこんな大事な事を黙っていたのに、どうしてここまでミカエルを信じてくれるのか。きっと自分ならこれ程までに寛大にはなれない。
「陛下、カッコよ過ぎますよ。それもこれも、やっぱり──」
「おい、エイダン。お前はいつも失礼だぞ。早く陛下に御報告を申し上げるんだ」
ヘンリーがエイダンを叱りつけるなか、ミカエルはエイダンの言葉の続きがとても気になった。きっとそれはミカエルの知りたかった言葉だ。だけど今更エイダンに訊ねる事など出来なかった。
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