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第87話
エイダンの報告は、ミカエルもしっかりと聞かなければならない。ミカエルはすぐさま頭を切りかえた。
「御報告申し上げます」
改まり、エイダンとヘンリーがアリソンの前で片膝を突いた。ミカエルも慌てて一足遅れで片膝を突いた時、アリソンから立つよう促される。
ミカエルはもうアリソンの伴侶、王妃の立場にある。特別な公的という場でない限り、王妃が王に跪くことはしないという。ミカエルはそれならばと直ぐに腰を上げた。
「先ず都民の状況ですが、最初のシールド破壊の場所はパスト地区、夢魔一族の者が何名か犠牲になりました」
ミカエルは奥歯をきつく噛み締めた。犠牲者がゼロだと決して思っていたわけではない。ヴァンパイアらとの闘いは、上空から見ただけでもかなり凄惨なものだった。
(命を既に奪っておきながら何が警告だ。ルシファー絶対に許さない)
「しかしヴァンパイアらのパワーは増したとはいえ、奴らの攻撃での犠牲者は出ておりません。多少の負傷者はございましたが、直ぐに療養所へと搬送致しました。命に関わる負傷者はいないと連絡を受けております」
「そうか……。まずは魔王軍大将としての務め、大儀であった。被害に遭ったパスト地方、また遺族の者、そして負傷者には手厚い支援をするように」
「御意」
エイダンが頭を下げる様子を見つめながら、ミカエルは魔王軍の偉大さを改めて思い知った。そしてエイダンと魔王軍に深く感謝した。
あの時ミカエルが見た光景では、ヴァンパイアに分 があったように見えた。しかも魔王軍は民を守りながらの闘いだったために、どう見ても不利な状況だった。それなのに民をしっかりと守る魔王軍の屈強さに、ミカエルは尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
「ミカ、ルシファーについての報告を聞かせてくれるか?」
ミカエルは頷き、ルシファーの力についてまだ把握出来ていない事など、あったことは全て話した。そしてあっさり引いていったことも。
「エイダン兄上、各地方に隊員を付けるよう、隊長らに指示を」
「はっ」
返事するや否や、エイダンはその場で赤い光を纏ったかと思えば消えていた。
「ミカ、報告ありがとう。奴の行動は気になるが、二度と同じ過ちはしないよう、手を打つ」
だから心配するなと、アリソンはミカエルの腰を抱き寄せた。その逞しい腕に身を委ねつつも、ミカエルはルシファーの事が気にかかって仕方がなかった。ルシファーは聡い男だ。今夜ミカエルを一人で呼びつけた事が偶然だったとしても、この魔界で天使の姿でいることに先ず疑問に思ったはずだ。そしてそれには必ず理由があると。
場所も人間界では駄目な理由なども色々考えているだろう。
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