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第88話

 このまま姿を現さず、十日間が過ぎてしまったら。ミカエルはアリソンの腕の中で身震いをしてしまう。 「ミカ大丈夫か?」 「大丈夫。武者震いだよ」  アリソンに心配かけないように笑いかけるが、これは自分一人の問題と済ますわけにはいかない事を思い出す。ミカエルは笑みを消すとアリソンの青い目をまっすぐに見つめた。 「アリソン、ヘンリーさん」  二人に呼びかけると、ヘンリーは顔を上げ、アリソンはミカエルと向き直った。二人の真剣な目がミカエルを映す。ミカエルはゴクリと喉を鳴らした。 「きっとルシファーは今回のことで警戒したと思います。オレのこの姿を見せた事が一番の失態でした」 「そうは言っても、あの時のミカに選択肢はなかった。自分を責めるのはよせ」  ヘンリーも同意を示すために、ミカエルへと深く頷いてみせた。 「分かってる……。あの時は民を人質に取られて向かうしかなかった。でも結局は死者まで出してしまって、挙げ句警戒心を与えてしまったことが──」 「ミカ、厳しいことを言うようだが、命のかかった時に、後からああすれば良かった、こうすれば良かったは通用しない。起きてしまったことは、どんなに願っても元に戻ることは無いし、亡くなった命は戻らない。どんな結果になろうとも、それを受け入れる事が闘う者の、護る者の責務だ。その時々の好機を逃さず動いたミカを、誰も責めはしない。後悔するなとは言わないが、それをしっかり受け止め、同じ失敗を繰り返さないように教訓としろ」 (そうか。こうやって後悔してても、ウジウジとしている事が駄目なんだ)  犠牲になった者のためにも前を向いて、アリソンの言う通りに二度と同じ失敗はしてはならない。  軍を率いてきた過去の経験は、確かに自信にもなっている。しかし闘いはその時々によって、状況が変わる事も知っているはず。そして冷静さを欠いてはいけないということも……。 「はい。犠牲者のためにもオレはしっかり前を向いて、必ずやルシファーを倒します」  アリソンはミカエルを見守るように優しい目で頷いた。  まだ完全には自身の気持ちに折り合いなどついていないが、アリソンのお陰で気持ちが少し楽になった。 「ただいま戻りました。陛下、配備完了いたしました」  エイダンが一瞬で現れ、報告する。 「ご苦労」  アリソンが労いの言葉をかけると、エイダンは頭を下げる。そして顔を上げたエイダンは、次にミカエルに顔を向けた。 「ミカ様」 「はい」  エイダンの洋紅色の目は次にアリソンを映す。 「アリソン陛下」  改まったエイダンに、ヘンリーも同じくミカエルからアリソンへと視線を移していった。 「我々はルシファーを倒す事は叶いませんが、民を護ることに関しては、我々がしっかりと務めます。ですので、御二方にはルシファーに専念下さいますよう、無礼を承知で申し上げます」 「兄上らに任せておけば、他は安心だ」  アリソンが朗らかに言い、ミカエルの右手を握る。ミカエルもしっかり握り返し、ヘンリーとエイダンにしっかりと頷いてみせた。

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