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第89話
実際目にした事もあり、魔王軍は間違いなくとても頼りになる軍である事を知った。彼らは近衛兵としての自信と誇りで気迫に満ちている事が、ミカエルに強く伝わってくる。ミカエルは感謝を込めて二人に深く頭を下げた。
「ミカ様、お部屋までご一緒させて下さい」
ニコニコとエイダンがミカエルの隣に立つ。するとミカエルを挟むようにヘンリーが隣に立った。
アリソンはまだ仕事があるため、ラルフと共に執務室へと向かってしまった。ゆっくりする時間が無いのは仕方ないが、アリソンも早く休んで欲しい。
「陛下はお忙しい御身なので、ミカ様もお寂しいでしょうが、ご辛抱下さいますようお願い申し上げます」
「は、はい。もちろん承知してます」
内心を読まれたようなタイミングだったため、ミカエルの顔は赤く染まった。熱を冷まそうと両手で顔を扇いでいると、二人が突然ミカエルの前に躍り出て跪いてきた。
「ど、どうしたのですか?」
「ミカ様」
「……はい」
二人からの真剣な眼差しに、ミカエルの羽は緊張でパタパタと動いてしまっている。
「ご成婚おめでとうございます」
息の合った二人の祝辞。ミカエルはあまりの嬉しさで思わず羽を大きく広げてしまった。
「ありがとうございます! お二人に祝福して頂き、本当に嬉しいです」
「こんな時ですが、こんな時だからこそ、めでたい事は我々にとっても心が救われる思いです。幸せをお裾分けして頂いてるのですから」
ヘンリーの言葉にエイダンも力強く頷く。
「ミカ様が心から陛下を愛していらっしゃる事が、私たちにとっては至上の喜びなのです」
ミカエルは驚きの眼差しをエイダンへと向けた。
「わ、私のアリソンへの想いは……筒抜けでしたか」
「そうですね。ミカ様の言動全てが愛なくしては不可能な事ですので」
ニッコリと微笑むエイダンに、ミカエルは少しはにかみながらもニッコリと笑みを返した。
きっとエイダンはミカエルの覚悟を言っているのだろう。十日後にはミカエルは天使ではなくなる。命も無限から有限となってしまう。それは寿命がある種族からすれば、計り知れない決断に映るのかもしれない。だけどミカエルにとっては、やっと自分の人生に終止符が打てる時が来たのだ。しかも愛するアリソンと共に最期を迎えられる。これほど幸せなことはない。
「では、ミカ様。本日はとても慌ただしい日となりましたが、ごゆっくりとお休みくださいませ」
「わざわざお送りいただきありがとうございました。お二人もごゆっくりとなさってください」
「勿体なきお言葉。ありがとうございます。おやすみなさいませ」
「おやすみなさい」
魔王の部屋の前で別れると、ミカエルは一人部屋の中へと入っていった。
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