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第95話

「アリソン、愛してる」  言葉にするだけでも、想いが溢れてくる。どんどん好きになっていく自分が少し怖い。怖いけど、心がアリソンでいっぱいである事が幸せでもあった。  アリソンとくっついているだけで、気持ちを宥めてもらっているようで、心がホッと落ち着いていく。 「俺こそ愛してる」  額に再びキスを落とすアリソンの唇が心地いい。ミカエルはうっとりしながら、桃色の唇を開く。 「もっと言って」 「何度でも言うぞ。愛してる、ミカ。俺の唯一無二。死んでも愛してる」  「アリソン……」  気持ちの籠った一語一句が、呪文のように降り注ぐ。アリソンの愛の言葉を聴きながら、ミカエルは深い眠りへと落ちていった。  三日目。ミカエルの服が新調された。羽があっても着やすいように、背中には全てファスナーが施されている。これはミカエルにとって、とても嬉しいものだった。  王妃付きの侍女に手伝ってもらいながら、新しい服を身につけ、ミカエルは高揚した気持ちで侍女にお礼を言う。 「ありがとうございます。助かりました」 「い、いえ、そんな、王妃様がお礼など。なんと恐れ多い」  侍女は慌てて床に額をつけた。ミカエルは直ぐに侍女を立たせながらも、その胸中は複雑だった。  アリソンと伴侶になった自覚はあるが、自分が王妃という立場になった自覚がまだまだ芽生えない。  天界でもミカエルの立場は天使の中では最高位におり、傅かれる立場だった。しかしどちらかと言うと、神に仕える事が天使としての務めだったため、他者から仕えられているという認識が、あまりなかったようにミカエルは思った。だから余計に戸惑ってしまうのかもしれない。  本音を言うならば、侍女であろうと、一般市民であろうと、仲良くして身分の壁は無くしたい。だけどそうもいかない事はちゃんと分かっている。  魔界は特に、恐ろしい悪魔が蔓延る世界だ。その頂点に立つ者は、誰よりも強く威厳に満ちていなければならない。彼らを支配し、秩序を保たせる。そうしなければ弱い者が生きて行けなくなるからだ。  そのためにルシファーを倒し、初代魔王が新たな魔界を創った。その権威を貶める事などミカエルに出来るわけがない。 (そうは言っても、こんなの慣れる日は来んのかな)  ミカエルがふとため息を吐いた時、大きな扉が開く音がした。 「ミカ、着替えたか?」  アリソンが部屋へ入ってくると侍女がすぐに床に手をつこうとしたが、それよりも早く下がるように命じた。頭を下げ直ぐに部屋から出ていく侍女を見送ってから、ミカエルはアリソンに微笑んだ。 「うん、サイズもめっちゃいい感じで動きやすい。ありがとう」  白のロンTに黒のジョガーパンツのようなボトムス。ミカエルはその場で羽を広げてくるりと回った。 「よく似合ってるぞ」 「ありがと」  アリソンはミカエルに微笑んだ後、表情を引き締めた。ミカエルは頷き、アリソンと気持ちを一つにする。

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