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第97話

 ミカエルが戻ると、アリソンが不意に抱きしめてきた。温かい腕の中で、ミカエルはホッと息をつく。 「今日はもう城へ帰ろう。いいな?」  優しい声に、ミカエルは素直に頷いた。本当は一人でも魔界の隅々までルシファーを探し回りたい。でもそれは絶対にしてはいけないことだ。一人で動いてもルシファーは倒せないし、捕まったらそれこそとんでもない事態を招くことになる。迷惑をかけるというレベルの話ではなくなるのだ。  アリソンとテレポートのために手を繋ぐと、ミカエルは思わずアリソンの顔を見上げた。その手は熱く、僅かだが小刻みに震えている。握る力も強い。アリソンの気持ちがミカエルの中へと流れ込んできた。とても悔しいという強い思いが。  いつも余裕があるように見え、ミカエルを常に励まし宥めてきたアリソンだが、心底では見つからないルシファーに苛立っている。時間が限られている事もあり、アリソンにも強い焦燥が募っているのだ。ミカエルはアリソンの手を強く握り返した。 「奴を(おび)き出す方法はあるが、それをすると多くの者が死ぬことになる」  アリソンが遠くを見据えて言う。ミカエルは黙って頷く事しか出来なかった。ルシファーのために消える命があってはならない。 「それにしても、広い魔界といえど、我々の監視下にあるのに、何故情報が一つも入ってこないのでしょうか。ヴァンパイアの動きも分からないなど、この様なこと今までございませんでした」  ヘンリーの言葉に、アリソンが眉根を寄せる。 「もしかして、奴らは本当の意味で隠れている──っ」  アリソンの言葉が途切れる。そして美しい青い目が大きく見開かれた。 「ミカぁーー!」  アリソンと繋いでいた手は無情にも引き裂かれ、ミカエルの視界からアリソンが消えてしまう。何が起こったのか考える暇もなく、ミカエルの身体は何かへと(したた)かに打ち付けられた。 「ガハッ!」  背中と後頭部を激しく打ち付け、一瞬息が出来ないほどだったが、更に胸元が熱く燃えるような痛みに襲われ、ミカエルは口元から血を吹きこぼしていた。 「やぁ、ミカエル。やっと近くでお前の美しい顔が見れるよ」 「……ル……シファー……っ」  ヴァンパイアの城からかなりの距離で飛ばされ、ミカエルは荒れた地にルシファーの剣により串刺しにされていた。 「ルシファー!」  アリソンの怒りの声がしたかと思えば、ミカエルの真上にいるルシファーの全身が青い炎で包まれていた。 「くっ……!」  ルシファーは急いでミカエルから跳び退る。  交代するように、アリソンがミカエルの傍へ瞬間移動し、ミカエルの胸に刺さった剣を引き抜いた。 「あぅっ」 「ミカ!」  大量の血が溢れだし、同時に現れたエイダンとヘンリーがミカエルの胸元を押さえる。

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