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第98話(※微流血シーンあり)

「ヘンリー……さん、エイ……ダンさん、大丈夫……です。直ぐに……血は止まるので……」  心臓を貫かれたため、回復に少し時間を要するが、ミカエルはどうにか上体を起こそうとする。 「ミカ、無茶をするな!」  今にも泣き出してしまいそうな程に苦しそな顔をしたアリソンの頬に、ミカエルはそっと手を伸ばした。 「アリソン……大丈夫……ちょっと手伝って」  ヘンリーらが恐る恐ると手を離した胸元の傷が、もう完全に塞がっていた。あまりにも早い回復に、これにはアリソンたちも驚きを隠せないようでいた。アリソンでもここまで早く傷は回復しないようだ。しかも心臓を貫かれたら、いくら魔王でも死ぬ確率の方が高い。  アリソンは少し安堵の表情を浮かべると、ミカエルを支えて起こした。 「ヘンリー兄上、少しばかりミカを頼む」 「はい」 「待ってアリソン」  ミカエルはアリソンの炎に包まれながらも、平然としているルシファーを睨みながら、制止の声をかける。 「なんだこの忌々しい炎は」  ルシファーが炎を消そうと手で払っているが、なかなか消えずに苛立っている様子が見て取れた。低級の悪魔は一瞬で灰となっていた青い炎。しかしルシファーにはあまり効果がないようだった。  ミカエルはアリソンを手招き、耳打ちした。ミカエルの話にアリソンは頷くと、ルシファーへと足を向けて行く。 「ミカ様、大丈夫なのですか?」  ゆっくり立ち上がるミカエルを支えながらも、ヘンリーは心配で堪らないといった様子だ。エイダンも不用意に触らぬようにしながらも、直ぐに支えられるようにしている。  これ以上心配かけないように、ミカエルは満面の笑顔を二人に見せた。 「大丈夫です。本当、ありがとうございます。ご心配おかけしましたが、傷も塞がって痛みもだいぶ軽減されたので、もう平気です!」  ミカエルは無事をアピールするために、胸を摩って見せた。すると幾分二人の表情が和らぐ。  天使の身体のお陰で助かった命。これが堕天使だったら死んでいただろう。 「それに、手や服を汚してしまってすみません」  二人の手はミカエルの血で真っ赤に染まっている。ミカエルは羽根を何枚か抜くと、彼らの手を拭いた。 「ミ、ミカ様! そのような事は我々が致します。あと、どうか羽根を抜くのはおやめ下さい」  三人がバタバタしている様子をルシファーは見つめていたが、アリソンの気配に渋々と視線を移していった。  ルシファーと魔王が対峙する。息を呑むシーンだ。 「ミカエルと兄弟水入らずの場を邪魔するなど、何とも無粋な王だ」 「兄弟水入らずが聞いて呆れる。ミカをあの様な目に遭わす者は断じて許さん」 「天使は死なない。例え心臓を貫いても直ぐに修復される。知ってるだろう? ちょっとしたユニークな挨拶だ」 「なに?」  アリソンから憤怒のオーラが立ち(のぼ)る。それを見たルシファーは、先程まで邪魔だと手で払っていた青い炎を一瞬で消し去ってしまった。  炎を跳ね除ける力がないと見せかけ、実際は直ぐに消せるのに遊んでいたようだ。 (本当に……どこまでも歪みきってる) 「全く話が通じない王のようだ。こんなつまらん男はやめて、余のもとへ来いミカエル。余がずっと愛してやる──」  ミカエルへと差し出されたルシファーの右腕。アリソンから放たれたとんでもない威力の(いかずち)が、ルシファーの右腕上腕を吹き飛ばす。  血飛沫が上がり、切断された断面が露わになった。

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