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第102話

「ふざけるな、ルシファー!」  ミカエルの叫びを嘲笑うかのように、脳内でルシファーが高らかに笑った。  怒りと悔しさ、不甲斐なさ、絶望、あらゆる負の感情で押しつぶされていく。 「ミカ様!」  名を呼ばれ、ミカエルの意識が引き戻される。声の主を辿ると、一人の男が飛ぶようにこちらへと掛けてくるのが見えた。 「あなたは、やはり……アルベルトさん!」 「ミカ様ご無事で? あ……お召し物に血が着いて……」  精悍な顔をしたアルベルトの顔が青くなる。ミカエルは慌てて両手と頭を振った。 「これは、ヴァンパイアの血です! オレは全くの無傷ですので」  本当は全て自分の血だ。真っ白なロンTがほぼ真っ赤に染まってしまっている。血のせいで着心地悪いTシャツの裾を、ミカエルが無事をアピールのために捲ると、すかさずアリソンが下ろしてしまった。  一瞬気まずい空気が流れるが、アルベルトは少し安堵したようだ。 「それなら良かったです。鳥獣から連絡をもらい、駆けつけましたが、遅くなり申し訳ございません」  急いで駆けつけてくれた上に、ミカエルの心配までしてくれるアルベルトに、恐縮しつつも嬉しくて堪らなかった。なんて温かくも頼もしい助っ人なのだと。危険を顧みず、わざわざ駆けつけてくれるなど、なかなか出来るものではない。ミカエルの頬には感謝で一筋の涙が流れる。 「遅いなどとんでもないです。来てくださった事がこんなにも心強く、嬉しい事はありません。王を助けても下さいました。本当にありがとうございます」  アルベルトはミカエル個人に何か言いたいようだったが、それを振り払うように一度目を閉じ、そしてやおら開いた。その目は打って変わって厳しくなる。 「ゆっくりお話したいのですが……時間がございません。どうかここは我々にお任せして頂きたいのです。ヴァンパイア共と殺り合えるのはそう巡ってはきません。無礼を承知で申し上げます」 「……でも」  アリソンらがだいぶヴァンパイアの数を減らしたとはいえ、まだまだ数はいる。 「ご心配なく。我々も精鋭の大軍を引き連れていますので」  アルベルトの後方を見ると、ヴァンパイアとライカンが激しく激突している。だがアルベルトの言う通りに、ライカンの方が若干多い上に、押しているように見えた。 「ここは彼らに任せよう。いいか?」  アリソンがミカエルを立てるように訊ねる。ミカエルは少し考えてから頷いた。  きっとアリソンは、ライカンらの矜恃を傷つけないようにしたのだろう。ここでアリソンらが加わると純粋な戦闘とは言えなくなる。宿敵であるヴァンパイアを自分たちの手で倒す。それこそが彼らが今望んでいることなのだろう。

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