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第103話

「ではアルベルトさん、ここはお任せします。どうかご無事で」 「はっ! 有り難きお言葉」  アルベルトは頭を深く下げると、俊敏な動きで戦場へと向かっていった。アルベルトの腰には銃が装備されていた。きっとアリソンを救ってくれたのはアルベルトだ。ミカエルは心中で深く感謝をした。  そして張り詰めていた緊張の糸が切れたことで、心の重石が一気に崩壊し、ミカエルの意識はここでプツリと途絶えてしまった──。  ここは何処なのだろうか。暗闇だ。周囲には何もなく、四角い箱の中に閉じ込められているようなのに、酷く心地がいい。  ずっとここに居たい。何も考えずにいられるから。ミカエルは膝を抱え、そこに顔を埋めた。 〈逃げてていいのか?〉   幸せな時間を壊すように、突如と何処からか声がした。暗闇の中を必死に目を凝らすミカエルだったが、何も目には映らない。 「……なに?」 〈ちゃんと向き合わないとダメだろ〉  どうやら声の主はもう一人の自分のようだった。頭の中で声がする。しかも今は一番触れて欲しくない話題だった。 「話しかけるな!」  ミカエルは頭をブンブンと振って声を追い出そうとする。 〈それじゃあいつまで経っても前に進めない〉 『うるさい! お前に何が分かる!?』 〈でも神剣が折れた事実は変わらない〉  ズキリとミカエルの胸は痛む。  神剣が折れた感触は今も手に残っている。まるで薄いプラスチックが簡単に折れてしまったような感覚だった。折れるまでは、あらゆる希望を乗せた重みで、神剣を握る実感が手に伝わっていたのに。折れる瞬間は本当に薄っぺらいものに感じた。 『……なんで……どうして折れたんだよ……。オレの剣だけ』 〈……〉  発散出来ない焦燥と哀しみに、ミカエルは頭を掻きむしるしかなかった。 『アリソンへの想いがまだ足りなかったのか? こんなに愛してるのに、まだ足りないって言うのか?』  日に日にアリソンへの愛情は募っていた。一時も傍を離れず、少しでもアリソンに触れていたい。恋心は益々募るばかりで、今だって本当はアリソンの胸に抱かれて安心したい。だけど今のミカエルにはその資格がないのだ。 『ミカエル』  凛とした中で、神秘的で美しい声がミカエルの名を呼ぶ。  ミカエルはパッと顔を上げた。そこには眩い光を纏った神がいる。直ぐにミカエルは神へと跪いた。 『天主様』  神はまさに神出鬼没だ。何処に現れるか分からない。眠りの中であろうと、神は自由に対象の者への意識に入り込むことが出来る。しかし魔界へ来たミカエルに、姿を見せる事が出来るとはと正直驚いていた。

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