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第104話
『神剣が折れてしまったばかりに、自分の殻に閉じこもっておるのか?』
ミカエルは何も言えずに唇を噛むしかなかった。
神に無様な失敗を知られた上に、情けない姿を晒してしまっている。こんな姿、見られたくはなかった。正直神にも放っておいて欲しかった。
『私は忠告したはず』
『……忠告?』
顔を上げて、ミカエルは神々しい金の目を見つめた。神はゆっくりと頷く。
『疑いを持たぬようにと』
『……はい』
確かに言われたことはしっかり覚えている。しかしその意味が分からずにいた。
疑い? 何を疑うというのか。ルシファーに関しては疑うも何も、疑うことが無い。
ミカエルのアリソンへの愛情にしても、疑う余地など全くない。この愛を疑われたら、何が愛なのか分からなくなる。
『……』
そこでハッとした。自分のこの想いは果たして愛と呼べるのか。アリソンを想う気持ちが強くなるほど、アリソンにももっと愛して欲しいと、見返りのようなものを求めていなかったか?
愛とは本来、相手に見返りは求めないものだ。相手を慈しみ、どんなことがあっても愛する。極端な事を言えば、例え相手が自分を好きではなくても愛し抜くということだ。
ミカエルはアリソンも、自分と同じように愛してくれているのかと、ふと心の奥底で感じることがあった。それは言わば疑っていた事に繋がる。
『……めん……ごめん……アリソン……』
アリソンに顔向けが出来ない。アリソンの愛は確かなのに。どんな事があってもミカエルだけを愛してくれているのに。アリソンの愛を疑ってしまっていた。彼の魔剣は真っ直ぐにルシファーへと貫かれていたのに。
『恋を知ったばかりのお主に、酷な事だったかもしれぬが、今はもうそうではないだろう?』
神の言葉にミカエルは頷く。今はもう何も疑ってはいない。この先どんな事があっても、アリソンを愛し抜く気持ちは変わらない。もはやこの愛をなくしては生きていけない。
しかしルシファーを倒すという意味では、もう遅いのだ。
『さぁミカエル。もう三日も眠っておる。そろそろ目覚めよ』
『え……』
これまでにない程の神々しい光を纏った神が、ミカエルに手を翳した瞬間、何かが頭に流れ込んできた。
そして暗闇が再び訪れた。
「……カ……ミカ」
意識が少し混濁する中で、ミカエルを呼ぶ声がしっかりと聞こえた。だがその声は悲しみに打ちひしがれたかのように、とても辛そうなもの。ミカエルは早く安心させたくて、声の主を探して手を暗闇の中でさ迷わせた。するとその手は直ぐに温かいものに包まれる。アリソンの手だと直感で分かった。
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