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第106話

 暫くしてアリソンが「あぁ、なるほど」と呟く。  ミカエルがそっとアリソンを窺うと、そこには何とも嬉しそうな顔をしたアリソンがいた。ミカエルは思わずなぜと首を傾げてしまう。 「それはつまり、ミカは俺の事が好きすぎて好きすぎて、愛を見失っていたということだろう?」  やたらと〝好きすぎて〟を強調して言われ、恥ずかしくて頬が熱くなる中、ミカエルは首を振った。 「いや……そうなんだけど。でもオレはアリソンの──」 「だからミカがもう不安に思うことがないように、毎日ミカに愛を伝えるから心配するな。というか、今からたっぷりミカを愛したいんだがいいか? その前に風呂へ行かないとだが」  饒舌に話し出すアリソンは、自身の汗やヴァンパイアの血で汚れた服を見て笑う。  ミカエルはそんなアリソンを見つめながら、アリソンへの愛がまた大きく膨らんでいった。  普通ならば傷つき、ミカエルを責めてもいい立場だ。でもアリソンはそうしない。アリソンは全てポジティブな方へ変換して、双方が傷つかないようにしてくれている。  心が本当に大きい男だ。こんなにいい男を、もう二度と自分のことで悲しい顔はさせまい。ミカエルはそう心に強く誓った。 「三日間眠ってたという事は、今日はもう六日目なんだな……。というかもう夜だから、今日一日は潰れてしまったけど。皆さんにも心配かけてしまったし、顔を見せに行きたいけど……」 「それは明日に改めよう。今はミカを独り占めさせてくれ」 「う、うん」  アリソンの唇がミカエルの項に落ちる。魔王の部屋には大きな円形のジェットバスがある。二人はゆったりと湯船に浸かり、心身の疲れを癒す。  アリソンに背中を預ける形でリラックスしているが、何分羽が邪魔で広げる格好となってしまっている。それでも狭さを感じない大きなバスルームは快適の場だ。 「それはそうと、あと四日か……」  しみじみと言ったアリソンは、ミカエルの羽を愛おしそうに撫でている。 「うん。天使でいられるのも、あと四日。羽がなくなるからもっと密着できるよな」 「密着出来るのは嬉しいが、ミカの羽は感情豊かで好きだな。可愛くてたまらない」 「そ、そう? 感情出てる?」  ミカエルは照れた顔を見られるのが恥ずかしくて前を向く。しかし羽は雄弁に物語る。小さくパタパタ動く様子を、アリソンが微笑ましく眺めている事にミカエルは気付くことはなかった。 「あ、そうだ、ライカンのみんな、アルベルトさんはどうしてる? 無事だったのか?」 「あぁ、無事だ。どうやらヴァンパイアが途中で、ルシファーによって引き上げられてしまったようだが」 「そうか……」  アルベルトの報告によると、五分五分の闘いだったところ、突然ヴァンパイアが一斉に消えたようだ。ルシファーはヴァンパイアの全滅を避けたかったに違いない。純粋な思いで、ヴァンパイアらを救うために引き上げさせたとは到底思えなかった。 「ルシファーに関しては俺が必ず眠りに就かせる。魔剣で貫かれた傷は、そう簡単に癒えるものじゃないから、暫くは出て来ないだろうが」 「その事なんだけどさ……」  ミカエルは誰が聞いているわけでもないのに、内緒話をするように、アリソンの耳元で小さく告げた。

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