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第112話

「アリソンごめん、ちょっと起こしてくれ」 「あぁ」  アリソンは直ぐにミカエルの上半身を支えながら、ゆっくりと起こす。そしてベッドに散らばっている大きなクッションをかき集めて、ミカエルのための背もたれを作った。 「ありがと」 「いや。他にして欲しいことは?」 「もうないから大丈夫。アリソンも隣に座って」 「分かった」  二人は並んで座り、広い部屋を何となく眺める。そしてどちらからともなく指を絡め合った。 「もう少しして動けるようになったら、皆に会いたい」 「そうだな。特にラルフは早くミカに会いたくて仕方ないようだし」  少し面白くなさそうにアリソンは言う。その顔がやたらと可愛く見えて、ミカエルはこっそりと笑みを浮かべた。 「そっか、じゃあ早く顔を見せないとだな。リハビリがてら、シャワー浴びてくるよ」 「風呂ならミカが寝ている間に入れた」 「え!? そうなの? でも寝汗かいてるし、やっぱり浴びてくる」 「もう少しゆっくりしてからでいいだろ?」  行かせまいと、アリソンがミカエルの手をギュッと握りしめてきた。  どうやらアリソンは甘えたモードに入ってるようだ。 「分かった。もう少しゆっくりしてから行く」 「あぁ」  ずっとミカエルに付きっきりで、恐らく仕事も溜まっているだろう。だけどここで仕事の話をするのは野暮だ。アリソンの目尻が嬉しそうに下がっている。こんなに幸せオーラ全開にされたら、ミカエルも嬉しいに決まっていた。  こんなに穏やかな時間、魔界へ来てから初めてではないだろうか。二人の時間は会話が少なくなってきても、とても心地いい。何を話そうかだとか考えなくても、アリソンが隣にいてくれるだけで、ミカエルは幸せだからだ。  午後からは慌ただしく時が動いた。昼食を二人で摂ったあとは、ミカエル一人でシャワーを浴び──この時アリソンも一緒に入ると言い、説得するのに苦労した──そして身支度を整え、今は魔王の執務室でラルフ、ヘンリー、エイダン、侍従長のリアムらと顔合わせをしている。 「ミカ様がお目覚めになられて、本当に安堵いたしました」  ラルフがハンカチで目元を抑える。ミカエルが執務室に入って来たときのラルフは、それはもう感極まったように、涙をボロボロと流していた。思わず抱きつきそうになったラルフを止めたのは、もちろんアリソンだ。 「本当に皆様には、ご心配おかけしました。申し訳ございません」  皆はミカエルの無事な姿と、血色のいい顔を見て安心してくれたようだ。 「そしてルシファーの件ですが……」  ルシファー討伐の事では、皆には詳細を話していなかった。ラルフは大まかな事は知っているが、詳細まではアリソンも伝えていなかったよう。  ルシファーのために、ミカエルが人間として暮らしてきた事、アリソンが突然人間界へ飛ばされた事、そこからミカエルは皆にゆっくりと語っていった。

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