112 / 123
第112話
「アリソンごめん、ちょっと起こしてくれ」
「あぁ」
アリソンは直ぐにミカエルの上半身を支えながら、ゆっくりと起こす。そしてベッドに散らばっている大きなクッションをかき集めて、ミカエルのための背もたれを作った。
「ありがと」
「いや。他にして欲しいことは?」
「もうないから大丈夫。アリソンも隣に座って」
「分かった」
二人は並んで座り、広い部屋を何となく眺める。そしてどちらからともなく指を絡め合った。
「もう少しして動けるようになったら、皆に会いたい」
「そうだな。特にラルフは早くミカに会いたくて仕方ないようだし」
少し面白くなさそうにアリソンは言う。その顔がやたらと可愛く見えて、ミカエルはこっそりと笑みを浮かべた。
「そっか、じゃあ早く顔を見せないとだな。リハビリがてら、シャワー浴びてくるよ」
「風呂ならミカが寝ている間に入れた」
「え!? そうなの? でも寝汗かいてるし、やっぱり浴びてくる」
「もう少しゆっくりしてからでいいだろ?」
行かせまいと、アリソンがミカエルの手をギュッと握りしめてきた。
どうやらアリソンは甘えたモードに入ってるようだ。
「分かった。もう少しゆっくりしてから行く」
「あぁ」
ずっとミカエルに付きっきりで、恐らく仕事も溜まっているだろう。だけどここで仕事の話をするのは野暮だ。アリソンの目尻が嬉しそうに下がっている。こんなに幸せオーラ全開にされたら、ミカエルも嬉しいに決まっていた。
こんなに穏やかな時間、魔界へ来てから初めてではないだろうか。二人の時間は会話が少なくなってきても、とても心地いい。何を話そうかだとか考えなくても、アリソンが隣にいてくれるだけで、ミカエルは幸せだからだ。
午後からは慌ただしく時が動いた。昼食を二人で摂ったあとは、ミカエル一人でシャワーを浴び──この時アリソンも一緒に入ると言い、説得するのに苦労した──そして身支度を整え、今は魔王の執務室でラルフ、ヘンリー、エイダン、侍従長のリアムらと顔合わせをしている。
「ミカ様がお目覚めになられて、本当に安堵いたしました」
ラルフがハンカチで目元を抑える。ミカエルが執務室に入って来たときのラルフは、それはもう感極まったように、涙をボロボロと流していた。思わず抱きつきそうになったラルフを止めたのは、もちろんアリソンだ。
「本当に皆様には、ご心配おかけしました。申し訳ございません」
皆はミカエルの無事な姿と、血色のいい顔を見て安心してくれたようだ。
「そしてルシファーの件ですが……」
ルシファー討伐の事では、皆には詳細を話していなかった。ラルフは大まかな事は知っているが、詳細まではアリソンも伝えていなかったよう。
ルシファーのために、ミカエルが人間として暮らしてきた事、アリソンが突然人間界へ飛ばされた事、そこからミカエルは皆にゆっくりと語っていった。
ともだちにシェアしよう!