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第113話

「なるほど……。ルシファーが手に入れたくても入れられなかった〝愛〟。それがルシファーの最大の弱点だったのですね。それをお二人の紛うことなき〝愛〟のパワーで滅ぼす。肉体的なパワーではなくて心のエネルギーを使って倒すのは、とても繊細でシビアな事だったと思います。でも……」  エイダンはミカエルの目を見つめ、そして全身の力を抜くようにして微笑んだ。 「今のミカ様は、とても自身に満ち溢れていらっしゃいます。しっかり惚気られている気持ちですね」  エイダンが愉快そうに微笑む横で、ヘンリーは「またお前は無礼なことを!」と叱っている。そんな二人を見てアリソンも楽しそうだ。  ミカエルは皆の温かい心に救われ、感謝の想いで胸がいっぱいになった。 「皆さん……本当に……ありがとうございます」  泣くつもりはなかったのに、ミカエルの頬には涙が伝う。それに皆が見惚れてしまい、アリソンは怒って皆を追い出してしまった。 「アリソン……オレせっかくみんなと話せて嬉しかったのに」 「ミカの涙を見ていいのは、俺だけだ」 「えー……。そんな減るもんじゃねぇのに」  泣いてしまった自分もどうかと思うが、なにぶんミカエルは涙もろいところがある。人間だった頃にも、映画のちょっとしたワンシーンでもボロボロと泣いていた。天使時代は泣くということがほぼ無かったが、人間になった時は箍が外れたように、泣けた。泣くというのは時には大事なことだいう事も知った。 (まぁでも、やっぱ男たるもの人前で泣くのは控えるべきか。泣くのはアリソンの前でだけにしよ)  こうしてミカエルの思考も迷走しながらも、七日目はあっという間に過ぎていった。  八日目。ミカエルは魔王の部屋で一人、窓から外の景色を睨むように眺めていた。王都には気持ちいいほどの晴天が広がっている。  この王都の先にはルシファーがまだいる。あの時に倒せていれば、今頃心穏やかな日々が送れていたのに。ミカエルは悔しさで歯噛みした。  昨日はミカエルの目覚めに皆は喜んでくれた。そしてルシファーの件でも誰も文句を言う者はいなかった。それどころか、ミカエルらを慮ってくれていた。  でも自分の殻に閉じこもって、自分と向き合っても何一つ解決せず、ついには神が見ていられずにミカエルの前に現れることになった。  自分は一体何をしたのだろうか。ルシファーを倒すと意気込んで魔界へ来たのに、全て他人に助けられている。内心では期待外れだったと思われていても、仕方のないことだ。全てはミカエルが原因なのだがら。 「もう……みんなの期待を裏切って、ガッカリさせたくないんだ」  だから、ルシファーはこの手で絶対に息の根を止めてやりたかった。

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