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第114話

 無駄かもしれないが、ほんの僅かでも希望があるなら縋りたい。ミカエルは折れた神剣を強く握りしめ、そして光へと翳した。折れた刃に集まる光が、まるで神剣に力を与えてくれているようで、ミカエルはそうなればと強く願った。  傷が癒えるまで待っていられない。傷の治りが遅いなら今すぐ打撃を与えてやりたい。  ミカエルは逸る気持ちを抑え、身支度を済ませると、アリソンのいる執務室へと赴いた。 「アリソン、オレ行くよ」 「……行くのか」  執務机に着いていたアリソンが、ミカエルを見るや腰を上げた。しかしその表情は、複雑そうに眉が寄せられている。ラルフは頭を下げ、ミカエルのために一歩下がった。 「厳密に言えばもう後一日半ほどしかない。ルシファーは依然として出てくる気配はないけど、恐らく……」  ミカエルの揺るぎない決意をアリソンは一番に理解している。それでも手放しで送り出すことは辛いと、複雑な心境がアリソンの表情からもよく分かった。だけどこれはアリソンとしっかりと話し合ったことだ。 「……分かった。俺は時が来るまで、王都(ここ)をしっかり護る」 「うん、待ってて。必ず」  ミカエルはアリソンのブルースカイを見つめながら、左腕にはめたバングルにキスをした。それを受け止めたアリソンはミカエルへと頷く。 「気をつけて」 「お気をつけて」 「はい」  二人に見送られ、ミカエルは執務室を後にした。  最後の闘いにヘンリーとエイダンを護衛につけてもらい、ポリノーズへと訪れた。あの時と同じく鳥獣が一羽飛んでいるだけで、他の生物の気配はない。荒れた地に音がなるのは、風の音と落ち葉がカサつく音のみだ。  ミカエルは空を旋回する鳥獣に手を振った。魔界の鳥は夜目がしっかり利くようで、ミカエルに応えてひと鳴きした。あれは以前アルベルトに報告してくれた鳥獣だ。魔界に住む鳥獣は殆どがライカンスロープに従うという。あらゆる場所に生息しているため、もしヴァンパイアらを見つけたら教えてくれる手筈にもなっている。 《ルシファー聞こえてるんだろ? 前みたいに不意打ちなどしないで、堂々と出て来い。隠れるなど、小物がすることだ》 「小物とは酷い」 「っ……!」  不意に背後で声がしたと思えば、ミカエルはルシファーの腕の中へ閉じ込められていた。  ヘンリーとエイダンが素早く剣を抜き、刃をルシファーへと向ける。 「ゆっくりとミカエルに触れさせてももらえないのか」  大袈裟に両手を上げ、ルシファーはミカエルを解放した。ミカエルは直ぐにルシファーへと向き直る。そこでルシファーの全身が目に入り、ミカエルは瞠目してしまう。

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