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第117話
一体何をしたのか。ミカエルらは辺りに警戒しながら、ルシファーに視線をやった。ルシファーは無表情でミカエルだけをじっと見つめている。何かを探るような目に、ミカエルは何が襲ってきても直ぐに対処出来るよう意識を集中させた。
「ミ、ミカ様……」
ヘンリーが突然動揺した声を上げる。ミカエルはどうしたのかとヘンリーを窺うが、ヘンリーの視線はミカエルの背後にあった。ミカエルが後ろを確認しようとした時、突如とルシファーが声を上げて笑う。
「ククク……やはりそういう事か」
「……何が可笑しい?」
ルシファーが何を笑っているのかは分からないが、とにかく今は誰も邪魔をする者がいない。ヘンリーが何か動揺していたが、もし何かが潜んでいるなら彼らは既に動いている。ミカエルが今は絶好の好機なんだと意気込んだとき、エイダンによって腕を掴まれてしまった。
「エイダンさん……?」
ミカエルが驚く横で、エイダンの顔色はヘンリー同様に悪い。ミカエルの眉間には、どうしたのだと深いシワが出来てしまっていた。
「ミカ様……大変──」
「ミカエル! お前はもうあと僅かで堕天使となる。余を倒すためにその姿が必要だったのだろ? だから神がわざわざ天使のお前を魔界へ送ってきた。いくら神の加護があっても、長らくは天使が魔界に身を置くことは出来ない。たがら時間操作の術を使った。そうしたら予想通りだったな」
ミカエルの顔から全身にかけて、一気に血の気が引いていく。恐る恐ると自身の背後へ顔を向け、羽を広げた。
「あ……ぁ……うそ……だろ」
羽先から少しずつだが、灰となっている。サラサラと小さな輝きを含み、それは風と一緒に流されていく。
ルシファーに時間を操作出来る能力があったなど、知らなかった。天界ではそのような能力を使った事がないから、おそらく魔界へ堕ちたことで取得した能力なのかもしれないが。
ミカエルの全身が小刻みに震えてくる。頬にも涙が伝っていく。そしてフラリとミカエルの足は、ルシファーへと進み出ていた。
「ミカ様!?」
「なぁんだ……。もうこうなったら、お手上げだな。そう思ったらなんか疲れた。堕天使になったら魔王にもきっと捨てられるだろうし……」
ミカエルの羽はもう半分ほどが、灰となってしまっている。背中の軽さを少しずつ感じながら、ルシファーへと虚ろな目で距離を詰めた。
「ミカエル、ようやく目が覚めたのか? 今ならお前を傍に置いてやってもよい」
「……本当に?」
「あぁもちろんだ。さっきはああ言ったが、お前が素直に頷かないからだよ。それは分かってくれるな?」
その距離はもう1メートルほど。ルシファーが目を細めてミカエルを見つめ、手を差し伸べてきた。
ミカエルはルシファーへと微笑んで、左手を自身の胸元まで上げた。
「ずっと一緒にいたい」
ミカエルはバングルを口元まで持ってくると、そっとキスをした。
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