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第120話

 ミカエルはニッコリと笑い、皆に手を振った。ライカンの雄叫びが再び起き、皆が抱き合って喜びを表現していた。 「もういいだろ? 城に帰るぞ」  アリソンは一人やきもきしており、ミカエルを直ぐに抱き上げてしまった。 「わ、分かった。それでは皆さんまた改めて」  ミカエルが手を振った瞬間には、もう二人の部屋のベッドの上だった。 「もうルシファーは倒した。だから何も考えずゆっくりと身体を休め、眠るんだ。目覚めたらゆっくり話そう」 「……」  ミカエルは返事をする前に、深い眠りへと(いざな)われていた。  どれくらい時間が経ったのか、身体に先程とは比べ物にならないくらいの倦怠感が襲ってきた。全身が驚くほどに熱い。 「あつ……はぁはぁ……はぁはぁ……」 「ミカっ……。おい、本当に大丈夫なのだろうな」 「はい、ミカ様のお身体は堕天使へと変異されている段階でございます。ミカ様はいまお辛いでしょうが、間もなくお身体は完全変異されるでしょう」  ミカエルは苦しい中で、ぼんやりと定まらない視線で声のする方に向けていく。アリソンは視界がぼやけていても分かるが、もう一人が誰か分からなかった。声も聞いたことがない。 「はぁはぁ……アリ……ソ……はぁ」 「ミカ!」  ミカエルが伸ばした手を、アリソンは直ぐに両手で包み込む。 「ミカ、もう少しの辛抱だそうだ。辛いだろうが、あと少し頑張ってくれ。水はいるか?」  アリソンはもう一人の男から布地を奪うと、ミカエルの額に浮いた汗を拭っていく。 「いい……だいじょ……はぁ……うっ!!」  突然ミカエルの背中に激痛が走った。あまりの痛さにミカエルは蹲ってしまう。 「ミカっ! ミカ……クソっ何もしてやれないのか!」 「陛下……」 (痛い……痛い……いたい……痛い……背中が焼ける) 「あぁ……くっ……」  肩甲骨辺りに何かが突き破るような感触がした。皮膚が裂かれるような痛みに、ミカエルの全身には脂汗が滲む。 「あぁぁっ!!」  完全に何かが皮膚を突き破った。歯を食いしばっていたが、その痛みは強烈すぎて悲鳴が上がってしまう。 「ミカっ……これは……」  背中を摩ってくれていたアリソンの手が止まる。 「はぁはぁ……あれ、痛みが……ウソみたいに引いていく」  息が出来ない程の痛みだったのに、今は肩甲骨の周辺が熱いだけで痛みが消えていた。身体の怠さも引いていく。そして何か覚えのある感覚。背中に意識を向けるとそれが連動して動く。 「え……羽?」  咄嗟に後ろを見たミカエルは、目に入ったものに唖然とした。小さな真っ黒い羽が生えている。ルシファーを彷彿とさせたが、ルシファーの羽はどちらかと言えばコウモリのような膜を張ったツバサのようだった。しかしミカエルの羽は、天使の羽が黒くなっただけのようだ。しかもかなりのミニサイズ。

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