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第121話
「え……っと……これって飛べるの?」
アリソンへと苦笑いを浮かべながら、もう一度意識を羽に向けると……。バサリと大きな音がした。
「あ……」
ミカエルとアリソンが同時に声を上げる。黒い羽が急に大きくなった。
「アリソン! 大きくな……わっぷ」
「ミカっ!」
アリソンへと振り向いた瞬間に、思いっきり抱きしめられていた。ミカエルは直ぐにその広い背中へと両手を回す。
「アリソン……いつも本当に心配ばかりかけて、ごめんな。そして本当にありがとう」
ミカエルはこれまでの感謝の気持ちをありったけに込めて、抱きしめた。
人間界で初めて出会い、強引ながらも人の気持ちを思いやれる心優しい悪魔だと知った。翔馬の事でも寄り添い、大きな心で包んでくれた。キメラが襲ってきた時は、身を挺してミカエルを守る。どんな時でも傍にいて、ミカエルだけを想っていてくれた。それはきっとこれからも変わらない。堕天使となったミカエルを映すブルーアイは、相変わらず愛情に満ち溢れているからだ。
「髪が伸びたな……。しかし、相変わらずミカは綺麗だ」
アリソンは甘い眼差しをミカエルに向けて、髪を一房指で梳いていった。
「綺麗とか言われると、ちょっと照れるんだけど」
ミカエルの頬が僅かに桃色に色づく。
「み、見た目は羽と、髪以外はどうなの? 鏡見てきたい」
綺麗だと言われて嬉しいが、実際自分がどのように変わったのか、心配でもあった。アリソンに支えられながらベッドから下りるが、明らかに天使の時との違いを感じた。身体に凄まじいパワーを感じるのだ。もしかしたら新たな力が備わったのかもしれない。
羽も自在に大きさを変えられるようで、ミカエルはバスルームに向かいがてら、ついつい羽で遊んでしまっていた。
「え……あんまり変わってない?」
頭に羊のような角も生えていない。ヴァンパイアのような牙も生えていない。目の色も変わらず菫色だ。変わったのは髪が鎖骨まで伸び、金の色味が少しくすんで良い感じになっている。後は羽がまた生えたこと。色は真っ黒だが、十センチ程のサイズにまで縮小する事が出来る、便利な羽が手に入った。
ミカエルは鏡に移る自分を見つめてから、隣りに立つアリソンへと視線を移した。
「オレはもう天使じゃない。堕天使……即ちアリソンと同じ悪魔となった。だから俺の名前は〝ミカ〟になったんだ」
アリソンは頷きながらも、少し不可解そうな顔をする。ミカエルは優しくアリソンへと笑う。
「オレの真名を呼んでみて」
「ミカの? ミカはミカ……ん? ミカ……なぜ言葉が出ない」
何度試してもアリソンの口から〝ミカエル〟と出ない。
「エルは神を意味する言葉だから、地位の高い天使にはみんな〝エル〟が付いてるんだ。ルシファーも天界にいた時はルシフェルだったし。堕ちたオレはもう神を名乗れないだろ?」
「そういうことか……」
アリソンは納得したように何度も小さく頷いた。
「なぁ、そう言えばさっきまで部屋にいたの誰?」
二人でまたベッドに戻り、寛ぐ。近くにいればお互いに触れ合わずにはいられず、指を絡めたり、髪を撫でたり、胸に擦り寄ったりと、思い思いに至福の時間を堪能する。
「あぁ、あれは魔王専属の医者だ」
「そうだったんだ。ならまた後でお礼言いたい」
「あぁ」
「その前に……」
アリソンの太腿を跨ぎ、ミカは誘った。もちろんアリソンは乗り乗りで、直ぐに熱い一時を過ごすことになった。
こうしてミカエルは堕天使〝ミカ〟として新たな人生を送ることとなった──。
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