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第3話
「あっ、桐藤ー、お待たせ」
「はぁ、俺は疲れてんだよ。しょうもない用事だったらぶっ飛ばす」
部屋に着くと、そこにはホスト? 俳優? と思うようなイケメンが、バスローブ姿で立っていた。
「まあまあ。あ、これウチの蒼くん。」
「……初めまして、蒼です」
圧倒されつつも挨拶をすると、桐藤さんの目線がこちらに向かってくる。上から下までじろじろ見られているようで、居心地が悪い。
「も〜、そんなに蒼くんのこと見ないで! 穴空いちゃうから! ていうか早く中に案内してよ〜、オレたち仕事終わったばっかでクタクタなんだからさ」
「お前ほんと図々しいな……」
ぐいぐいと部屋に入っていく店長を唖然と見ていたら、桐藤さんが俺の腰に手を当ててエスコートしてくれた。
ひいい! やっぱり何処かのホスト?! すっごく手慣れているんですが?!
「蒼も中に入りな。何か飲む?」
「だ、大丈夫です!」
急に耳元で話しかけられて声がひっくり返る。……恥ずかしい!
ねえ、こんなイケメンだったら、ゲイだろうがバイだろうがノンケ喰いの処女厨だろうが相手に困らないよね? 桐藤さんからしたらわざわざ俺を抱くことないよね?!
「わ〜、桐藤やらしいの! オレはノンアルビール飲みたい」
「お前には聞いてないけど」
「ひど〜い、オレにも優しくしろよな」
店長はそう言いながら、部屋の中にある冷蔵庫を勝手に開けてペットボトルの水を取り出した。
「店長……」
ゴクゴクと水を飲む店長に、若干引き気味の目線を送る。
「何? あっ、こいつが桐藤ね。桐藤巧 。Kのオーナーだよ。あと八神 組の若頭補佐なんだ」
「えっ」
衝撃的すぎて話についていけない。オーナー?! 八神組の若頭補佐?! ってヤクザってこと?! そもそもあのホストクラブ自体がヤクザが経営してるの……?! しかも桐藤さんが若頭補佐?! ってなに?!
「ちなみに俺はヤクザじゃないからね! コイツとは腐れ縁? みたいな? ついでにKの店長任されてるだけ」
「そ、そうなんですか……」
取り敢えず返事するのが精一杯だ。話についていけてない。
「蒼、俺のことは巧って呼んで」
衝撃的すぎて忘れていたが、まだ俺は桐藤さんに腰を抱かれていた。
店長もだけど、この人も大概マイペースだ。
「……巧さん?」
「良く出来ました」
つむじにちゅっとキスをされた。っ、何だこの甘い空気!! 桐藤……巧さんは何なんだ?!
「ふふふ、でさ、桐藤。この蒼くん、今月掛け回収出来なくて明日から系列の風俗店で働くんだけど、どーしても講習の人が都合が付かなくてさ。代わりに講習してくんない?」
「俺が?」
「そうそう。蒼くんノンケだし、後ろは初めてだから優しくしてね? じゃあ明日の昼すぎに迎えに来るからね! あ、蒼くんはいコレ」
店長から渡された紙袋の中を覗いてみると、ローションと薄さを売りにしているコンドームのLサイズが入っていた。
じゃあね〜とのほほんを超えて軽薄に見える笑みで、紙袋を持つ俺と未だに俺の腰を抱く巧さんを残して店長は去っていった。
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