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第36話

「っ、も〜、わかりましたから、早く着けて下さい……」 「仰せのままに」  言わせたのは巧さんなのに、なんて白々しい返事なんだ……。  巧さんがしゃがんで、太ももを撫でる。  太ももなんて、セックスする時にしか直で触られないから変な気分になってしまう。  そのままゴムバンドを太ももに巻き付けられて固定された。 「どう? 痛くない?」 「ん、はい、痛くないです」 「それは良かった」  バンドから伸びているクリップを、シャツの裾に丁寧に留めていく。  巧さんは真剣にやってるだろうけど、腕の位置があやしい、やばい、ほんと無理……っ! 「葵くん、勃っちゃってるね」  クリップを全てつけ終わった巧さんがまじまじと俺の姿を見る。 「興奮したの?」  巧さんの指が形をなぞると、身体がビクビクと反応してしまう。 「……ぁっ、」 「ふふ、その格好エロいよ」  ふるふると震える俺に、巧さんの目線が突き刺さる。 やばい、これ鎮めなきゃいけないのに、熱が全然治らない……! 「こんな所で勃たせるなんて、葵くんって結構変態だねぇ」  へ、へんたいって……、どちらかと言えば変態なのは巧さんじゃないの……?!   「巧さんが、変な触りかたするから……」 「え? 俺真剣に着けただけなのに? 心外だな。ほら、はやくスラックス履いて?」  さっき指でちんこ触ったじゃん!! 喉まで出かかったが、ここが試着室なのを思い出す。  こんな会話聞かれたら、社会的に死ぬ、というかもう前後の会話で既に死んでる、二度とこの店来れない……! と思ったけど、もともと巧さんに連れてきて貰わなければ入れないようなお店だった……。 「……こんな状態じゃスーツ着れません、着てきた服返して下さい」 「もう袋に入れてもらったら。着れないなら着せてあげようか?」  わざとだ。絶対にわざとだ。俺を揶揄って楽しんでいる……!  俺は巧さんを無理やり試着室から追い出して、深呼吸をしてからなんとかスーツに押し込んだ。  こんな良いスーツを仕立ててもらったのに……!  着替え終わり、そろそろと試着室から顔を出すと、巧さんは優雅にコーヒーを飲みながら店員さんと談笑していた。ちょっとムカついた。

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