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第44話

 巧さんをVIPルームに案内し、隣に腰掛けた。  VIPルームは外からほぼ見えない仕様になっていて、席料が通常料金の倍以上する。  だけど巧さんが通常フロアにいたら、みんながチラチラ見てくるからもしれないから俺は少し安心した。  一瞬だけなら巧さんかっこいいでしょ! と自慢したいけど、ずっと見られていたら嫉妬するし……。 「おはようございます、巧さん」 「おはよう、葵くん。ちゃんと着てくれたんだね、嬉しいな」  巧さんはそう言うと、俺の頬を撫でた。 「俺も会えて嬉しいです、巧さん」  この間会ったばっかりなのに、すでに巧さんに会いたかった俺はついついうっとりしてしまう。たくさん会えて嬉しいな……。 「あっ、葵くんがちゃんとホストしてる」 「もう、お世辞じゃないですって! 何飲まれます? 焼酎なら一本セットでついてますよ」 「うーん、ホストって言ったらシャンパンだよね。何が良い?」 「えっ」  そもそも俺は巧さんにお金を借りている身だし、スーツ買ってもらったばっかだし、巧さんオーナーだし、……好きな人にジャブジャブお金を使われても俺は喜べないし。  逆に不安になってしまうから、お金はあんまり使わないで欲しかった。 「やっぱ最近はアルマンドとか? 置いてある?」 「アルマンド?!」  一番安いランクのものでも30万円するシャンパンだ。そんなの入れて欲しくない……! 「俺これが良いんで!!」  セットで付いてくる焼酎の瓶を抱えるけれど、その瓶は巧さんに引ったくられた。 「あぁ……」 「売り上げになるし良いでしょ? 何本でもいいよ?」 「いやいやいや一本で良いです! 一本にして下さい!! はっ、ていうか一本も要らないです!!」 「じゃあ一本だけね。足りなかったら追加してね」  乗せられた!! 俺のバカ!!  俺の言質を取った巧さんは、VIP席のみあるベルでさっさと内勤さんを呼んでいた。

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