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第45話

「お待たせしました〜」  VIPに入ってきたのは、普段キャッシャーから出ない店長だった。  店長、仕事して下さいよ! いやしてるのか?! 「お前暇なの? 仕事しろよ」 「あれ〜? 桐藤クンには見えないの? 仕事しているこのオレが」  巧さんも同じことを思ったのか暴言を吐く。  なんだかんだ言っても、この二人って仲良いよなぁ。巧さんも店長も素? というか遠慮がなくなるというか……。  腐れ縁ってなんだろう……いや、邪推してない。仲良くて良いなぁなんて嫉妬してないけどね、別に! 「アルマンド。ブラックある?」 「ブラックな〜い。全然入荷ないし」 「じゃあシルバー……」 「いやゴールド! ゴールドでお願いします!!」  いきなり大声を出して巧さんの言葉を遮るので、店長がびっくりした目でこちらを見ていた。  いやいや、こっちもびっくりしてるんです! ちなみにゴールドが一番安い。  安いって言っても30万円だけど……、シルバーやらブラックやらの値段に比べれば安い方だ。 「え? シルバーなの? ゴールドなの? どっちも行っとく?」 「店長! 巧さん相手に煽ってどうするんですか! ゴールドです! 一本!」 「もっと金使わせてやればいいのに〜」 「本人を前に何言ってるんですか店長……」 「え〜? じゃあ桐藤が帰ったら桐藤の悪口で盛り上がろうね、蒼くん!」 「巧さんの悪口なんてありませんよ!」 「葵くんは可愛いなぁ、ほら、コイツと喋ってるバカがうつるよ。お前は早く持ってこい」  ぐっと腰に手を回されて、巧さんにもたれ掛かる体制になる。  俺はされるがままでぽすんと頭を乗せた。 「何を見させられてんのオレ……? コールはどうする?」 「どうしますか? 巧さん」  上を向くと、にっこりと笑う巧さんと目が合った。 「やってもらおうかな。タラタラやってるヤツがいたらクビで」 「いやいや、こえーよ。そんな理由でコールしようとすんな」  そう言って店長はVIPルームを後にした。  ん? ていうか結局シャンパンオーダーしてるし!! 今のどっちでオーダー通ったの?! シルバー来たらどうしよう……いや、店長のことだから二本持ってくるかも……! ていうかシャンパンいらない! オーダー自体キャンセルしたい……、おれもついゴールドとか口走ったし……!  「巧さん、俺ちょっとオーダー確認してきま……」  腰を浮かそうとするが、巧さんの腕に力が入りソファに逆戻りしてしまう。そのままぎゅう、と抱きしめられた。 「ダメ。俺の横にいて?」 「はい……」  きゅんとしてしまい、思わず了承の返事をしてしまった。俺のバカ!

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