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第48話

 今日は凄かった。  店が暇だったのもあるけど、まさかの俺がラスソン。  ラスソンなんて滅多に歌えないから何を歌えばいいのかわからなくて、盛大にテンパった。  巧さんは何でも良いと言うし、じゃあ一緒に歌いませんかと誘っても断られるしで、ラスソンあるあるのアイドルの曲を一人で歌い上げた。  ホストクラブ「K」は雑居ビルの六階にある。  巧さんをお見送りをする為に一緒にエレベーターに乗ると、俺は巧さんの服を少し引っ張り、ちょっとだけ背伸びをして唇を合わせた。 「キスしたら、離れ難くなっちゃうよ?」 「……もう帰っちゃうんですか?」  お店の営業はもう終わっている。でも俺は巧さんともっと一緒に居たいから、遠回しのお誘い。 「帰って欲しくない?」 「はい……」 「葵くんからアフター誘ってもらえるなんて嬉しいな」  そう言って唇を啄まれる。うれしい、もっとして欲しい……。  だけど、エレベーターはすぐに一階まで到着する。いつもは早く一階に着かないかなぁと思うのに、今日はこんなにも早い。   「すぐ出れるの?」 「荷物取ってきたらすぐ行けます」 「そう。車待たせてるから一緒に行こうか。そこの駐車場にいるから」 「わかりました、すぐ戻ってきます!」 「うん、待ってるね」  店に戻ると、店長がバシンと背中を叩いてきた。いてっ。 「すごいな蒼くん! 貢がせまくってるね〜」 「ちょ、店長人聞き悪いですよ!」 「え? そう? 桐藤が若い男を金で必死に繋ぎとめてるの面白いけど」 「そんなんじゃないですって!」  店長は巧さんがどう見えているんだ……?!  「あっ、蒼さーん! ラスソンおめでとうございます!」 「ありがとう、洸」 「すごいイケメン来てましたね、めちゃお金持ってるし! しかもヘルプつきたいって店長にいったらヘルプNG出てるって言われたんスよ〜!」 「あぁ……」 「もしかして他店の人ですか? いやー、スゴイっすね」  洸は悪い奴では無いけど、こうも明け透けに聞いてこられると返事に困る。それにはやく合流したい。 「洸! 蒼が困ってるだろ! だからお前売上ないんだよ!!」 「げっ、渚さん!!」  ナンバーワンの渚さんが後ろから洸の頭を叩く。  渚さんのエースと一悶着あった後から、洸を気に入った渚さんは厳しく指導をしているらしい。  前の優しかった渚さんはどこへ……と洸がたまに嘆いている。 「お疲れ様です、渚さん」 「おー、お疲れ。お客さん待ってるんじゃねぇの? はやく行ってあげろよ」 「はい、ありがとうございます!」 「蒼さん、ズケズケ聞いてすみません〜! 気をつけます!」 「いいよ、また明日ね。お疲れ様ですっ!」  ロッカーから荷物を取り出して急いで店を出た。

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